Clinton「大統領失踪」読後感
第42代大統領Bill Clintonと売れっ子作家James Pattersonとの共著"The President is Missing"を上下2巻を1週間で読み終えた。帯の宣伝に「元大大統領の実が知りうる知識と世界的ベストセラー作家の技量が合わさって生まれた唯一無二のエンターテインメントと言う触れ込みだけに、興味は尽きず、面白く、息をつかせなかった。2018年6月に原書が米国で発刊されると同時にベストセラー第一に躍り出て、その後数週間1位の座を守り続けたという。それが昨年2018年末の12月15日には日本語の翻訳初版が早川書房から発行されると早業にも驚いた。
<大統領突如失踪>
物語は主人公ダンカン大統領が国際的なサイバーテロ組織<ジハードの息子たち>の指導者スリマン・ジンドルクと内通した嫌疑で弾劾裁判にかけられそうになると言う窮地の中で、アメリカ全土を機能不全に陥れるサイバーテロから祖国を守るために、ある協力者に姿を隠して命を狙うテロリストの餌食になりかねない危険をも顧みず、1人で会いに行くという挙に出る。
<サイバーテロとは何か?>
このサイバーテロ攻撃が完全に成功するとどうなるのか、本書を読む前はイメージが湧かなったが、サイバーテロが米国のサイバーネットに送り込んだウィルスはワイパー型と呼ばれるもので、IT機器に入っている全てのソフトウェアを一掃する(Windows10やMacOSなどのOrerating Softが動かなるとPCは全く機能しなくなる)。PCもルーターも機能しない「でくの坊」のただの箱になってしまう。それはDark Age暗黒時代だ。このウィルスが動き出せば「米軍は戦力を失い、金融機関の全ての情報とバックアップデータは消え、配電網と伝送ネットワークは破壊され、給水や浄水の設備は壊滅し、携帯電話は使用不能に陥り、空港管制や鉄道運行システムや病院の機能も麻痺する。他にも様々な惨禍が起こる。その結果、多くの人命が失われ、あらゆる世代の健康が害され、世界大恐慌以上の経済混乱がもたらされ、全国大小の地域で暴力と無秩序がはびこる。その影響は全世界にひろがり、瓦礫の山を元に戻すのに数年を、経済と政治と軍隊が立ち直るのに10年、20年を要することになる。
最近全ての機器がインターネットで繋がるIOT(Internet of Things)の便利さが喧伝され、TV、エアコン、風呂、など全ての家電機器がスマホやスマート・スピーカーで操作できるというが、その便利さ(それ自体一つ一つは大した便利さではないと思われるが)に幻惑されて、全てをネットに依存してしまう危険はないのだろうか? かつてはデータをPCやネットに保存しても、台帳や紙の上のカルテなどが最終的な保存媒体とされていた思うが、今は如何なっているのだろうか? 便利さが即ち脆弱さと隣り合わせの危険な領域に踏み込んで終おうとしているのではないかかと危惧される。
ダンカン大統領はそのサイバー空間の広がりと脆弱さを完全に理解していたが故に、果敢にも自らに迫る危機を顧みず、果敢にもこのテロ攻撃に立ち向かい、側近の協力を得て、タイマーが仕掛けられたワイパー型ウィルスの起動を10秒前に抑え込み、無力化に成功する息詰まるようなストーリーだ。
<陰謀渦巻くホワイハウスの内幕>
しかも途中で国家安全保障を担当する少数の閣僚や側近しか知らないサイバーテロの暗号名"Dark Age"が外部に漏れていたことが発覚する。裏切り者を身近にかかえての作業は困難を極める。ホワイトハウスの内部に大統領を陥れ、解任に追い込もうという動きや副大統領に疑いの目向けさせ、自らがそのポストを狙おうとする陰謀など渦巻いている。現実のホワイトハウス内部もそのような権力欲の渦巻く世界なのだろうか?
<米国の真の友人は?>
ダンカン大統領は秘密の作戦指令室に移って、ウィルス無力化作戦に取り掛かる。そこに大統領の要請に応じて、駆け付けたのはドイツとイスラエルの首相、ロシアからは大統領の代わりに首相が来た。専門技術者集団を引き連れてやってきたイスラエルとドイツはこの作戦に貢献したが、ロシアは邪魔こそしなかったが、大した貢献はしなかった。
サイバーテロ組織<ジハードの息子たち>は密かにウィルスを米国のネット網に仕掛けると同時に、そのウィルス起動に邪魔が入らないように、大統領の秘密の指令作戦基地に暗殺団を差し向ける。腕利きの暗殺用兵たちを動員するには莫大な資金がいる。何とその黒幕はロシアとサウジアラビアの反国王派の王族だったということが後日判明する。
両者は米国を核兵器でとどめを刺すことまでは望まず、アメリカの弱点を突いて深刻な痛手を与えたかった。そうすることによって近隣諸国を好き勝手に締め付け、他の地域を威嚇して影響力を及ぼす自由を得たかったのだ。
それにしてもこの小説には日本も中国も全く登場しないのは面白い。アメリカの真の友人はドイツとイスラエルということなのだろうか?
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