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October 06, 2017

中島京子「長いお別れ」読後感

 ラジオ深夜便の0415~0450までシリーズ番組「明日への言葉」で作家;中島京子がアルツハイマー認知症にかかった父親を最後の十年間を見送った経験を語っていた。それを小説化したものがこの書物である。
 同女史の両親は父は中島昭和中央大学教授(フランス文学)母は同じくフランス文学者で明治大学教授)。作中では父親東昌平は静岡大学を出て、都内の中学校長を務め、その後図書館長にもなったという設定となっている。母曜子は平凡な主婦と言う処か。主人公には三人の娘がいる。長女茉莉(海洋生物学者の妻でカリフォルニアの研究所で研究中)、次女菜奈は食品メーカー勤務の夫に嫁いでいる。三女芙美は30台でまだ独身、フードコーディネーターという仕事をしていると言う設定。著者はこのうち誰なのか不明だが、三女なのではなかろうか?
認知症の最初の兆候は同窓会に出かけた昌平が「開催場所が何処だったか」分からなくなって帰ってくるところから始まる。その後徘徊が始まり、GPS機能付きの携帯電話を携行させたところ、後楽園で「どうしてもメリーゴーランドの乗りたいが、小さい妹は大人がいないと乗せられない」と乗車拒否されて、困っている姉妹に頼まれて、メリーゴーランドに同乗したりする。
 その後「家に帰る」としきりと言うので、静岡の実家に連れて帰ったりするが、病状は進行するばかり。デーサービスにも嫌がらずに通い、漢字テストなどでは驚異的な成績を示す。国語教師だったからだ。
 サンフランシスコに住んでいる長女の処に連れていかれたが、空港でも「家に帰ろう」と連発するが、娘宅で開かれたパーティーでは飛び入りで参加した長女の夫の元カノとうまく調子を合わせる。親しく話しかけてくる人は中学教師時代の教え子だと勘違いしてしまうようだ。
 しかし帰国後、その内言語機能も失われ、意味不明の言葉を発するようになる。娘たちは父親を老々介護する母親の大変さは理解しているのだが、自分の生活(長女は海外、次女は夫の両親と同居とのため引っ越し、おまけに高齢妊娠する。三女は仕事が立て込んでいる)にかまけて、三姉妹ともそれほど親身になり切れない。
 ところが母曜子網膜剥離を起こして、緊急入院し、昌平も熱を出して救急が来て入院するに至り、ようやく事態の深刻さを理解するに至る。三女芙美が呼ばれ、次女茉莉が千葉の夫の実家から呼び寄せられる。長女も独り東家の緊急事態に一人取り残されている状態に焦るが、次男の崇が不登校になっていることで、クリスマス休暇に学校から面談に呼び出されており、ままならない。ようやく12月30日に富んで帰って来たが、さらに事態は金融自体を迎えていた。昌平は原因不明の発熱が続き、「一週間が山ですが、人工呼吸器をつけるか、更には胃瘻なども選択肢に上がります。人口呼吸器も胃瘻も、本人がご本人の力ではもう成し得なくなった生命維持活動を人工的に行うものです。ご家族が希望されるなら行いますが、しかし、QOL(Quality of Life)の観点から、この立場は分かれますので、ご家族のご確認を取りたいのです」と言われてしまう。母曜子と三姉妹は相談して、「父は望まないと思います」と回答する。QOLは人が自分らしく生きていくことができる質的な幸福度のことだとしたら、一日4回の清拭(特に局部の)に強く抵抗し、怒って喚き散らし、腕や足を突っぱねるのだから、望んでいる訳がないと思ったのだ。
。 
 題名の「長いお別れ」といのは、不登校になっていた崇が校長先生との面談の際に、校長先生に「祖父が亡くなりました」と話したら、校長が「10年前から認知症か。それをLong Good Byeと呼ぶんだよ」と教えてくれてくれた処からとったようだ。

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クライド・プレストウィッツ「近未来シミュレーション2050日本復活」読後感

 著者のクライド・プレストウィッツは1940年デラウェア生まれ。ハワイ大学東西センター修士課程修了。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、その間慶応大留学。
 国務省、民間企業、商務省、レーガン政権下で商務長官特別補佐官として、日米貿易交渉にあたる。現在、経済戦略研究所長を務める知日派である。
 この著作は経済・政治予測と言うよりも、むしろ日本に入れあげた知日派の著者の「日本にこうあって欲しい」と願う近未来小説と言うべきであろう。

<2050年の東京>
 主人公は2050年、超音速ジェット三菱808機(ボーイング社は倒産、三菱重工に買収された。世界の大手航空会社の長距離路線は三菱808の独り舞台だ)に搭乗し、35年ぶり東京羽田空港に降り立つ。羽田は今や成田に代わる東京の表玄関になった。都心まで30分。無人自動車や高速鉄道が都心へ運ぶ。入国審査も通関手続きもない。すべて機内で審査されている。飛行機を降りると彼の荷物を積んだロボットが迎えてくれる。
 日本は風力や太陽光、潮流、海流、メタンハイドレートなどさまざまな低コストのエネルギー資源を開発し、そのエネルギーを貯めておく装置も開発した。日本はエネルギー輸入を必要とせず、完全なエネルギー自立を果たしている。
 東京には1000メートルを超す高層ビルが林立している。世界一の日本の耐震建築技術の発達と、炭素繊維を芯に使ったウルトラロープのお陰である。ウルトラロープのお陰で1000メートルの高さまで1本のエレベーターで行けるようになった。
 ホテルに着くとホテルマンが非の打ちどころのない美しい国際英語で出迎えてくれる。 近年治療目的で来日する外国人が増えている。損傷を受けた神経や機能不全の手足を修復する再生医療など最先端の治療法を求めてやってくる医療関係者もいる。
 アフリカのマリで開かれたオリンピックでは日本選手団は80個の金メダルを取った。日本人の体格も向上し、コーチ陣も優秀、全く新しいトレーニング方法を生み出した。ヨットの「アメリカン・カップ」は「ヤマト・カップ」と改称した。
 日本は全人口と労働人口が増加し続けている数少ない国の一つだ。特殊合成出生率は2.3人。人口置換水準の2.1人を上回っている。
 高等教育を受けた専門性の高い技術を身につけた移民も増えた。オフィスにいる幹部のほぼ半分は女性や外国人となっている。
 日本のビジネス・スクールが進化し、世界最高峰となった。トップ3は一橋大、慶応大、京都大で、4位に欧州のINSEADと続き、ハーバードはベストテンにすら入らない。
 戸建て住宅や集合住宅も大きくなり、瀟洒な造りとなった。広々とした居住空間は一般家庭にも住み込みの家政婦や介護ヘルパー用の部屋を設ける余裕を生んだ。

<2017年の危機と日本再生委員会> 
 このバラ色に未来図に比べて、2017年の日本は悲惨な状態にあった。アベノミックスは行き詰まり、中東情勢は緊迫しイランと湾岸諸国のとの紛争が激化し、ホルムス海峡が封鎖され、原油価格は300ドルに跳ね上がる。また中国海警が尖閣に上陸。沖縄には独立運動が激化する。挙句は日本の戦後経済成長のシンボルであったソニーがサムスン電子に吸収される。
 今、日本が直面しているのは明治維新と敗戦後の日本が経験した、国の存在そのものが脅かされる危機に直面している。こうした自覚から2017年5月国会は第二の「岩倉使節団」=特命日本再生委員会を創設する法律を定めた。
 その日本再生委員会の下記の答申(処方箋)を実行した結果、2050年には見事に蘇り、あらゆる分野において世界をリードするようになったというストーリである。

1.パックス・パシフィカ
 日本は竹島を韓国に譲り、国内の難題に足を引っ張られ、余裕を失った中国との間で尖閣問題を国際仲裁に付託する一方、中国企業にも日本や外国企業と共に、この海域の石油とガスの探査・採掘権を与えることを提案して片を付ける。
 近隣国との関係を改善した上で、日米安保条約の枠組みにインドが参加し、さらにはオーストラリア、インドネシア、フィリピンも加わり、「大同盟」と呼ばれるようになった。大同盟は今やNATOよりも重要な意味を持つようになる。大同盟のお陰でアジア太平洋、インド洋、ペルシャ湾に及ぶ地域全体に平和と安定が保たれてようになる。注目すべきはこの多国間の安全保障をリードするのは米国ではなく日本だということ情勢が生まれる。

2.女性が日本を救う。
 女性の就業率を高め、子育てと両立させる施策やが講じられ、婚外子や養子が差別されたり、肩身の狭い思いをされられる原因となっている戸籍制度は廃止された。その結果、女性の就業率は飛躍的に高まり、出生率も高まる。また有能な技能者、ビジネスマン、医療や介護にかかわる労働者を積極的に受け入れることとする。

3.バイリンガル国家:日本
 Native Speakerを大量に採用し、幼児期から英語に親しませ、英語を第二公用語にする。TV番組、ニュースには全て英語字幕を入れる。その他の大規模なEnglishnization=英語化を実施する。有能な移民を勧誘するためにもそれが必要である。これにより海外ともコミュケーションの強化・深化し、有能な人材が押し掛けるようになる。

4.イノベーション立国 
 日本の研究開発投資の額は決して少なくはない。しかし方向が間違っている。枯れかけた技術にこだわり、横並びの陳腐な類似製品のみを生み出している。
 「破壊的技術」:先進ロボット工学、自動走行車、次世代ゲノム工学、エネルギー貯蓄、3Dプリンティング、先端素材(ナノテクノロジーなど)、オイルやガスの探査・掘削技術、そして再生可能エネルギーなどにに重点的に投資すべきである。

5.エネルギー独立国
 太陽光発電、風力発電、地熱発電、など既知の再生エネルギーを開発整備するとともに、海流・潮流発電の利用を目指して、研究開発を進めるべきだ。日本列島には5ノットの速さで流れる潮流がある。これを利用すれば新型の水力発電ができる。原子力発電は放射能汚染の危険、廃炉コストがかかるので、廃止し、従来型の原子炉から出た廃棄物を燃やす統合型原子炉(IFR)の開発を進める(米アルゴン国立研究所が開発したが、連邦議会のの決議で1994に研究開発中止)。これだと廃棄物から放射性物質がなくなり、メルトダウンするリスクも少ない。
 しかし、発電量が安定しない再生エネルギーを有効に利用するためには、地域独占を前提に構築されているstand aloneの送電網を大幅に作り替え、柔軟に需給に対応できるスマートグリット型の送電網に再構築する必要がある。

6.ケイレツ・インサイダー型、既得権重視の経済構造の変革
 正規雇用と非正規雇用の差別廃止、コーポレートガバナンスの改革、セイフティ・ネットを「雇用を維持することが何よりも大切として、ゾンビ企業を延命させてきた」日本の失業保険制度を北欧型のFlexicurity(Flexibility+Security)に組み替える。軸足を「職場の保障」から「所得と雇用の保障」へと移す。その他、起業が容易な環境整備、独禁法適用除外の農協改革も必要。

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村上由美子「武器としての人口減社会-国際比較統計でわかる日本の強さ」読後感

著者の村上由美子さんは1960年生まれの52歳。現在OECD東京センター長を務めている。上智大卒業後スタンフォー大で国際関係論修士取得、国連に就職、平和維持部隊、国連開発計画を担当、国連官僚組織の非効率(パフォーマンスの悪さ)に嫌気がさして、ハーバード大でMBAを取得後、ゴールドマン・サックスに就職したが、その後やはり公的機関で働きたいと、OECD東京センター長の公募に合格して現職についたと言う。
OECD統計を駆使したこの著作の内容は出版社:光文社の紹介記事には

「35の先進諸国が加盟する国際機関OECD。日々収集される各種統計を読み解くと、日本は非常に「残念な国」である事実が浮かび上がってくる。労働生産性、睡眠時間、女性活躍推進、起業家精神……。さまざまな重要分野において、日本は主要先進国中で最低レベルである。しかし見方を変えれば、少子高齢社会、労働力不足であるからこそ、日本には他国にはない大きなチャンスが隠れていることがわかってくる。負の遺産を最強の武器に変えるため、豊富な統計をもとに、日本にとっての“ベストプラクティス”(最良の政策案)を考える。

第一章 人口減少が武器になるとき
第二章 眠れる「人財」大国・日本
第三章 女性は日本社会の “Best Kept Secret”
第四章 働き方革命のススメ
第五章 日本のイノベーション力を活かせ!」

とあり、論旨は明快、統計の語るところにも納得できる。しかし、第5章の「日本のイノベーション力を活かせ」の具体的内容は殆どないのが飽き足らないが、そこまで求めるのは欲張りというものか?
 要するに本書の訴えたかったことは、日本の人口減少は止められない。政府がいろいろ施策を講じれば、フランス、北欧諸国のように再び出生率が回復してくるかもしれないが、即効薬にはなり難い。
 ならば逆転の発想で人口減少を武器に変えるべきだというのだ。おりしも現在社会で進行しつつあるのはICT,AI革命である。ICT・AI革命が施行すれば、求められるスキルが変化する。非定形的な対人業務、非定型的な分析業務の需要が増え、定型的な手仕事業務、定型的な認知業務、非定型的な手仕事業務は減少する。それは基礎学力を備えた人材の需要が増えるということだ。
 その意味での日本人の潜在的スキル力は世界トップレベルである。PISA(Programme for Internaional Student Assesment OECD生徒の学習到達度調査)は有名で、日本は最近順位が落ちて、数的理解力は上海、シンガポール、香港、韓国、マカオに抜かれて7位、読解力は4位、科学的理解力は4位となっている。これの成人版PIAAC(Programme for the International Assesment for Adult Competencies)がある。これによると日本は読解力、数的理解力ともフィンランドを抜いて世界一である。 
 しかし、このスキルはまだ生きていない。日本の労働生産性の伸びは一位のルクセンブルグ、米国、EUに抜かれている。つまりこのスキル力が活かされいないのだ。ICT・AI革命の到来こそ、日本成人の潜在スキル力を活かすチャンスが訪れたということだ。しかも、日本は失業率が低く、人手不足状態が続く。ICT・AIが失業率を悪化させる抵抗感もない。ICT・AIは省力化として歓迎され、進行するだろう。
 しかも日本の中高年層は優等生である。調査対象の最高齢層の55~65歳の能力は驚異的に群を抜いて高い。日本の中高年層は訓練すれば、ICT・AI革命に容易に対応出来る基礎学力を備えているということである。
 また女性活用、就業率を上げることこそが日本のGDPを引き上げる隠し玉(Best Kept Secret)だという。何しろ成人女性の読解力、数的思考力の平均点はこれまた世界一なのだから。しかし賃金格差、差別意識(男性の方が女性よりも仕事に就く権利があると考える意識)は厳然と存在する。学生時代の仕事への意欲、「マネジャーやプロフェッショナルになりたい」という意欲はむしろ女性の方が高いのに、である。それが出産、子育て期の女性が正規雇用の場を離れ、再び仕事に復帰するときには非正規という風習(所謂M字カーブ)が事態を悪化させている。これは日本の損失である。しかもOECD統計上は女性の就業率が高まれば、出生率が増える傾向がある。日本より女性の就業率が高いのに出生率が低いのはドイツだけである。それは何故か? また「賃金格差が解消すれば、結婚したくなる?」とも。要するに「女性は日本社会の潜在力“Best Kept Secret”(隠し玉)」だというのである。
 更には日本はイノベーション大国である。OECD統計に「新興技術分野におけるトッププレーヤー」という統計がある。日本のウェート、存在感は「太陽熱収集器」を除いて、米国と並んで断トツである。しかし、「市場に新製品をもたらした企業の割合」はびりに近い。要するに日本はイノベーション大国で実力はあるのに、それが活かしきれていないのだという。その原因は「日本企業の大半が古い企業」だからという。しかし、飛鳥時代から続く宮大工の「金剛組」、室町時代に創業されたという「虎屋」などが、未だに健在だということは凄いことだし、日本の強みだと思うが、どんなものだろうか? 確かに大した技術、強みもないのに、唯々公的保証で生きながらえているゾンビ企業が多数存在することも事実だろう。対GDP比が低すぎるベンチャー・キャピタルの増やすことは必要だろう。
 アップルのiPhoneには別に画期的な技術でも何でもない。電話、音楽プレーヤー、カメラ、インターネットなど、何一つ画期的な技術はない。ただバラバラに存在していたそれらの技術を一つのプロダクトに統合し、拘りぬいたデザインに仕上げ、徹底したブランド戦略を立てて、マーケティングに力を注いで、イノベーションを巻き起こしたのだ。
 これからの時代は競争力のベースは嘗ての「製造」から、前段階の「研究開発」「デザイン」と、後段階の「マーケティング」「サービス」に移っている。特に我が国はサービス業の生産性が低いので、この部分を強化する必要がある。
 要するに村上女史が主張したいのは「少子高齢化を経済成長のプラス要因として、そしてビジネスの相対的優位性として利用するための条件を揃えている国は、日本以外には皆無といっても過言ではない」と言うことだろう。


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