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May 08, 2016

【松尾義之「日本語の科学が世界を変える」】の紹介

著者は国立高→東京農工大工学部→日経サイエンス編集部→ネイチャー・ダイジェスト誌編集長を務めた科学ジャーナリスト。
なかなか面白い着眼の書物である。
21世紀に入ってから、日本はほぼ毎年1名の割合で、ノーベル賞受賞者を輩出しているのは何故かと問いかけ、「それは日本語で科学しているからではないか」との仮説を証明しようとしている。「日本語は非論理的」「日本語は科学に適していない」と言う妄説は米国に次ぐノーベル賞受賞者を量産しているという事実の前に説得力を失ってしまった。
むしろ江戸時代の蘭学から、西周など明治の先達が心血を削って、科学用語のみならず、法律用語など近代西欧の学術用語を日本語に置き換えるという大事業を成し遂げてくれたおかげで、母国語=日本語で科学ができる世界でもまれな国を作り上げることができた。漢字表記は英語の学術用語とは異なり、本質が直感的に理解できる。英語の準公用語化などはナンセンスだと喝破している。アイデンティティのないグローバル化など百害あって一利なしだと。それよりも国語教育、科学教育の充実のほうがはるかに先であると主張する。明治の先達の努力に感謝である。むしろ日本語を媒体とする日本人の思考方法、即ちヨーロッパの言語ののように善悪、正反、正邪を二律背反的に明確の区別する思考法とは違い、中間に真理があると言う中庸の感覚が湯川博士の中間子理論や木村資生博士の「分子進化の中立説」などは日本語の思考方法が生み出したのでないかと言う。
しかし、日本人は世界で一番多くの文字種を使っている。漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット、アラビア数字、時計数字など6種もの文字種を使いこなしている。そのため有識者の間でローマ字表記論者が沢山いた。しかしこの難点は東芝の森健一博士が1978年に「日本語ワードプロセッサー」を開発されたことにこの問題点は完全に解決された。これは日本の文字文化に革命を起こした。その結果異文化を取り入れる許容度が非常に大きいと言う日本民族の特徴が損なわれることなく、、世界で最も多種類の文字を日常的使える状態となっている。この日本語ワードプロセッサーに技術は、中国の漢字体系のみならず、アジアの国々の文字やコンピュータ処理に流用されているという。世界貢献であるという点でも日本語ワープロの世界に誇ってい良い大発明で、ノーベル平和賞が何故授与されないのか不思議だという。
韓国は全面的ハングル化を進めたため、元の漢字熟語の読みが同じ場合、同じ表記になってしまい、行き違いが生じ、ましてや微妙なニュアンスの伝達など望むべくもないという。彼らの誇る李朝朝鮮の歴史書や古文書を読める人が殆どいなくなってしまったと言う。それが発想力の枯渇を生み韓国からノーベル賞受賞者が出ないという理由だと言えば、牽強付会が過ぎるだろうか?
何れにしろ、「この国に生まれてきて良かった」と思えるような国にすることが、国家の目標だとすれば、あらゆる学問・教育が世界水準で受けられる日本に生まれてよかったと言うのが正直な感想である。

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