「バランスシートで読みとく世界経済史」読後感
Jane Gleeson-White(オーストラリアのジャーナリスト)「バランスシートで読みとく世界経済史」読了。
複式簿記と言うのは、バランス・シート(BS)と損益計算書(PL)の二本立ての計算書を造ることかと思っていたら、原書のタイトルが"Double Entry"となっている処から見ると、毎日の取引を一つ一つ記録する日記帳のデータを仕訳帳に移して記録することを言うらしい。
複式簿記は1430年代にはヴェネチアの商人たちが既に一つの取引を貸方と借方の二つの欄で記録するという複式簿記の仕組みを完成さていたという。
その仕組みを体系化して世界初の簿記の論文「計算及び記録に関する詳説」を1494年に数学全書の一部として発表し「会計の父」と呼ばれるようになったのはイタリア・トスカーナ州のサンセポルクと言う町に生まれたルカ・パチョーリと言う修道士だった。印刷機の発明によって欧州中に広がったパチョーリの人生の集大成ともいえる「算術、幾何、比および比例全書」(スンマ)の中にもヴェネチア式の簿記が含まれているが、大部分はユークリッドの「原論」とフィナボッチ(フィナボッチ数列で有名)の著作から学んだ知識を基にした研究の成果が詰め込まれたインド・アラビア数字と代数学を扱った最初の印刷物であった。このスンマが代数学と複式簿記を広め、欧州の科学と商業に大きく貢献したという。簿記論などはアカデミズムとは程遠い商業学校で教える俗っぽい技術に過ぎないと思っていたが、実に数学の裏付けのある極めて先進的学問であることが分かった。
複式簿記が資本主義の発達を生み、それを国民経済レベルにまで拡大することによってケインズなどの国民経済計算を生みだし、マクロ経済学のか確固たるツールとなったという。
しかしながら、複式簿記の専門職である会計士もエンロンの不正会計を見抜けず、ロイヤル・スコットランド銀行、リーマン・ブラザーズの不正も見逃した。複式簿記もデリヴァティブ取引などには対応しきれていないのかもしれない。
さらに大きな問題は市場で市場価格に基づいて取引されない財サービスは複式簿記の中には含まれない。例えば価値の高い家事労働とか、地球資源・環境と言う外部経済を搾取し、産業廃棄物を外部不経済としてまき散らすなどの行為は複式簿記にも、その応用ある国民所得計算にも算入されていない。例えば2ドルのマック・ハンバーガーはこれらのコストをすべて算入すると百倍の200ドルになるという。
この複式簿記の限界・欠陥を克服すべきだというのが著者の問題意識らしい。
不思議に思ったのは、アラビア数字なしには複式簿記は成り立たないとおもうが、アラビア語は右から左に書くが、数字は左から右へ書いていたのだろうか? 辻褄が合わないように思うが・・・・・・・。
しかしながら、確かに全ての文明の産物は他の文明との邂逅と応答から生まれるという歴史のダイナミズムの一例を見る思いがして、なかなか面白かった。
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