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May 27, 2016

三橋貴明「中国崩壊後の世界」読後感

<新駐中国大使の就任挨拶>
 5/17の新聞によると、久しぶりに「チャイナ・スクール」出身者(外務省の中国語研修組を指す)の横井氏が中国での勤務経験の長さや人脈が買われ、トルコ大使から中国大使に起用されたと言う。そして大使就任記者会見の内容が詳しく報道された。
 その中で大使が中国留学時から現在までの中国経済の驚異的な発展ぶりを次のように回顧している。
「客観的な数字でご説明申し上げますと、たとえば1980年、私がまさにここに留学した当初、日本と中国のGDP(国内総生産)の差というのは、日本が10に対して中国が1でした。中国の人口は日本の10倍ですから、GDPパーキャピタは1対100といったような、そういった時代が比較的長い間続いたと思います。 

 ただ、私は前回(2006~2010年)、上海総領事をしており、かつ上海万博の直前だったと思いますけれども、ちょうど日本と中国のGDPがほぼ同じになり、それからちょっと目を離したこの5年間に、日本のGDPが5兆ドルに対して、中国は2・2倍、11兆ドルになっているというふうにうかがいました。

 まさに1980年と今日には36年間の差がありますけれども、その間にまさに日本が1、中国が10分の1であったものが、日本が1、中国が2・2というふうに大きく変わっている。これは数字だけだとなかなか実感できないかもしれませんけれども、これは当然のことながら世界の経済、政治におけるおのおのの国の立ち位置、あるいはおのおのの国との関係もそれは前とは大きく違っているということだと思います」。
 
<最早打つ手のない中国経済>
 「隣国のこの驚異的な経済発展は本当なのか?」「中国は永続的に成長するのか?」との素朴な疑問を解明する一助になるかとの思いから、今回昨年末に出版された気鋭の経済評論家の最新作の題記書籍を読んでみることにした。
 結論からいえば、「不動産バブルの崩壊に伴う信用不安→ホットマネー(外国からの投機資金)の流出→それを防止するための株式バブルの演出→株式バブルの崩壊→通貨危機の恐れ」と言うプロセスの最終段階に至っており、もはや中国政府に打つ手がないと言うことのようだ。

<捏造されているGDP統計>
 中国には偽物だらけだ。腕時計の偽物、DVDの偽物、最近はゴールドマンサックスの偽物まで登場した。英FTは「中国の7%成長は本物か?」と疑いを持っており、独立調査機関:コンファレンス・ボードの推計によると2008年の成長率は4.7%(政府推計は9.6%)、2012年のそれは4.1%(政府:9.7%)と実態は政府発表の半分以下であるという。第一鉄道輸送量が10%も減少しているのに、7%の成長率を維持しているなど言うことがありうるのだろうか? また対前年比で輸入量も減少し続けている。10~20%も輸入量が減り続けていて、7%の成長率を維持するなどと言うことはありうるのだろうか? 小生の海運会社調査部長当時の経験則では先進国では、大体各国のGDP成長率の2倍の輸入額増加が見られたという記憶がある。
 しかし中国大使の言われるように、あれあれという間に世界第二の経済大国にのし上がったように見える現実の姿と、GDP成長率捏造疑惑との間には違和感と言うかギャップを感じてしまう。かつての成長率は正確だったが、経済が変調を来してから、矛盾を覆い隠すために捏造するようになったのか、疑問が残る。
 
<想像以上に脆弱な国家中国>
 中国は国民が運命共同体意識=国民意識を持つ国民国家とは言えず、チベットや東トルキスタンなどを侵略して相手国の住民を無理やり「中国人」にしてしまった。チベット人やウイグル人が漢人とナショナリズムを共有することなどあり得ない。それ以前に中国では上海人と北京人ですら、同朋意識を持たず、憎悪しあっているという現実がある。
 しかも人治国家で法治国家ですらない。政治家とのコネが全てを決める。グローバリストにとってこれほどありがたい国はない。規制当局と「繋がる」ことによって、「国民の利益」を無視してビジネスを展開、特定の企業や投資家の利益最大化を実現することが出来る。「人民の健康や安全、環境をも無視した、政治と結びついたビジネス中心主義」はグローバリズムと相性が良い。それは国内の人々をコネの恩恵に浴する人々とそれ以外の人々へと二分化していく(Two Nation化)。
 二分化された人々は平時にはお互いに距離を置くことで共存が可能であるが、大規模災害や戦争・内乱の非常事態には平穏は一気に崩れる。
 その不安感から人民が「自分」や「家族や一族」の利益しか考えず、出来るだけ短期で資産を蓄え、安全な「外国」に移民することばかり考えている国家は極めて脆弱な国家であって、一連のキャピタル・フライト→通貨危機的状況の接近にはそのような背景があるとしたら、中国共産党が反日キャンペーンを繰り広げ、やたらに愛国心を強調して、ナショナリズムの幻想を植え付けようとするのも理解出来る。

<資源国にははた迷惑な中国経済の急拡大と急失速>
 日本が鉄鋼生産世界一を誇っていた1975年当時、その生産量は高々1億2000万トン弱であった。終戦時壊滅状態にあった日本の鉄鋼業が1.2億トンの生産量に達するまで実に30年の歳月をかけている(その当時の中国は25万トン位)。中国の鉄鋼生産能力は現在8億2000万トン。21世紀に入ってから急拡大した。これが中国の不動産バブルの崩壊によって、鉄鋼需要は生産量の半分以下に落ち込んでしまった。実に日本の鉄鋼生産量の4倍規模の余剰を抱え込んでいることになる。このような供給過剰のはけ口を求めて強引にAIIBと言う銀行を設立し、世界中から資金を集め、インフラ投資を実施しようとしているとも考えられる。
 中国経済の急減速で迷惑を蒙っているのはオーストラリア、ブラジル、中東諸国、ロシア更にはカナダなどの資源国である。例えば2011年のピーク時には1トン当たり185ドルだった鉄鉱石価格が、現在では96ドル、更には48ドルに下落するだろうと言われている。その影響で、しばらくこの世の春を謳歌していたブラジルは国債が暴落、再び債務国に転落するのではないかと危惧されているという。オーストラリアの経済も苦しいし、中東諸国、ロシアも原油価格の低迷に苦しんでいる。 中国経済の急拡大は世界中に資源輸出の設備拡張に奔らせ、それが余剰設備となってBRICS諸国を苦しめているのである。
 いずれにしろ、「中国は永久に右肩上がりで成長する」と言う期待は幻想に過ぎなかったようだ。

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Posted by: ยาสอด | October 18, 2021 07:34 PM

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