講演「認知症最新研究~治療法と予防戦略」の紹介
先日のある会の夕食会で題記の演題:『 認知症最新研究~治療法と予防戦略 』の講演が行われた。講師は国立研究開発法人:国立長寿医療研究センター研究所長認知症先進医療開発センター長 柳澤勝彦 氏。同氏は医学における卓越した功績を表彰する「ベルツ賞」を受賞するなど認知症研究の第一人者である。
認知症の話となると、後期高齢者に差し掛かった会員達にとっては他人事とは思えないらしく、270人もの参加者があり、満員の盛況であった。しかも夫婦同伴の参加者が多数を占めたのも、夫婦のどちらかが認知症を発症する可能性が迫っているとの切実感によるものかもしれない。
余計なお世話かも知れないが、高齢者にとっては有益な話とも思えるので、その概要を報告し、ご参考に供すこととした。
<認知症とは何か?>
加齢に伴う脳障害の総称だが、認知症の原因の6~7割はアルツハイマー病である。アルツハイマー病は脳の変性疾患の一種で、アミロイドβという蛋白質の一部が分離重合して大脳内に蓄積する。アミロイドβが貯まると大脳皮質の神経細胞が脱落する。大脳皮質皮質には実行機能(仕事や行動の段取り)を司る前頭前野や、エピソード記憶機能(昔の記憶ではなく、最近の出来事を記憶する)を司る楔前部がある。これらが損なわれることによて、日常生活に支障を来すようになる。
<治療方法>
アミロイドβの蓄積を抑える薬の開発されているが、蓄積が進んだ後では効果がない。ごく初期の時期に投与しないと効果がないが、アミロイドβは20年もかけて、蓄積していく代物なので、初期症状を見つけですのは極めて難しい。
<予防戦略>
しかし、アミロイドβが蓄積して、大脳が変性しても、認知症が発症しないこともある。アメリカのある女子修道院が認知症研究に全面的に協力してくれて、驚くべき事実が発見された。84歳で亡くなったある修道女の脳を死後解剖してみたところ、彼女の脳の変性症状は最高のステージ6(一番進んだ状態)だったにも拘らず、死の直前まで現在の時間を4分の誤差で認識出来るほど驚異的な認知能力を保持していた。この修道女は大学院で修士の学位を取り、小学校の教諭と高校教師を長らく続けたあと、修道院に入ったという経歴を有していた。彼女の認知予備能(脳の体力)が極めて大きかったからだと考えられる。
脳の体力と言うと「脳にも筋肉があるのですか?」と問う人がいるが、そうではない。脳の変性をカバーする他の部分のCapacityが大きいということである。大脳はアミロイドβ以外にも、血管障害、アルコール、外傷、生活習慣病などによっても毀損する。予備能を大きく維持するためには、学習・適度の運動を怠らず、良い食事(野菜、魚介類をふんだんに摂取する地中海型料理がよい。日本料理も負けてはいないという)、良質な睡眠をとる。要するに脳に優しい生活を送るということ以外に予防戦略は存しないということである。
これからも読書など学習を怠らず、読売ランド半周のジョギングや週一度の1000メートル水泳、テニスなども続けて、長年世話になった脳に優しい生活を送るよう努めることこそ、介護保険などで国家財政・国民経済に余計な負担をかけない、せめてもの消極的な社会貢献なのではないかと考えた。
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