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April 14, 2016

講演「認知症最新研究~治療法と予防戦略」の紹介

先日のある会の夕食会で題記の演題:『 認知症最新研究~治療法と予防戦略 』の講演が行われた。講師は国立研究開発法人:国立長寿医療研究センター研究所長認知症先進医療開発センター長 柳澤勝彦 氏。同氏は医学における卓越した功績を表彰する「ベルツ賞」を受賞するなど認知症研究の第一人者である。
認知症の話となると、後期高齢者に差し掛かった会員達にとっては他人事とは思えないらしく、270人もの参加者があり、満員の盛況であった。しかも夫婦同伴の参加者が多数を占めたのも、夫婦のどちらかが認知症を発症する可能性が迫っているとの切実感によるものかもしれない。
余計なお世話かも知れないが、高齢者にとっては有益な話とも思えるので、その概要を報告し、ご参考に供すこととした。

<認知症とは何か?>
 加齢に伴う脳障害の総称だが、認知症の原因の6~7割はアルツハイマー病である。アルツハイマー病は脳の変性疾患の一種で、アミロイドβという蛋白質の一部が分離重合して大脳内に蓄積する。アミロイドβが貯まると大脳皮質の神経細胞が脱落する。大脳皮質皮質には実行機能(仕事や行動の段取り)を司る前頭前野や、エピソード記憶機能(昔の記憶ではなく、最近の出来事を記憶する)を司る楔前部がある。これらが損なわれることによて、日常生活に支障を来すようになる。
<治療方法>
 アミロイドβの蓄積を抑える薬の開発されているが、蓄積が進んだ後では効果がない。ごく初期の時期に投与しないと効果がないが、アミロイドβは20年もかけて、蓄積していく代物なので、初期症状を見つけですのは極めて難しい。
<予防戦略>
 しかし、アミロイドβが蓄積して、大脳が変性しても、認知症が発症しないこともある。アメリカのある女子修道院が認知症研究に全面的に協力してくれて、驚くべき事実が発見された。84歳で亡くなったある修道女の脳を死後解剖してみたところ、彼女の脳の変性症状は最高のステージ6(一番進んだ状態)だったにも拘らず、死の直前まで現在の時間を4分の誤差で認識出来るほど驚異的な認知能力を保持していた。この修道女は大学院で修士の学位を取り、小学校の教諭と高校教師を長らく続けたあと、修道院に入ったという経歴を有していた。彼女の認知予備能(脳の体力)が極めて大きかったからだと考えられる。
 脳の体力と言うと「脳にも筋肉があるのですか?」と問う人がいるが、そうではない。脳の変性をカバーする他の部分のCapacityが大きいということである。大脳はアミロイドβ以外にも、血管障害、アルコール、外傷、生活習慣病などによっても毀損する。予備能を大きく維持するためには、学習・適度の運動を怠らず、良い食事(野菜、魚介類をふんだんに摂取する地中海型料理がよい。日本料理も負けてはいないという)、良質な睡眠をとる。要するに脳に優しい生活を送るということ以外に予防戦略は存しないということである。
 これからも読書など学習を怠らず、読売ランド半周のジョギングや週一度の1000メートル水泳、テニスなども続けて、長年世話になった脳に優しい生活を送るよう努めることこそ、介護保険などで国家財政・国民経済に余計な負担をかけない、せめてもの消極的な社会貢献なのではないかと考えた。

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April 11, 2016

ビル・ヘイトン「南シナ海―アジアの覇権をめぐる闘争史」読後感

最近ビル・ヘイトン(Bill Hayton: BBC World News勤務のジャーナリスト)「南シナ海―アジアの覇権をめぐる闘争史」を読み終えた。
昨年12月に初版発行の最新の「南シナ海」に関する書物。先史時代から説き起こし、「中国の野心が初めて、アメリカの戦略的意志と正面からぶっつかっり」緊迫の度を高めている現状に至るまでの経緯と原因を分析している。
この海域には「ヌサンタオ」と呼ばれる海の遊牧民が存在し、太平洋の島々からインド、アラビア半島を経て、はるかマダガスカルに至る海上交易のネットワークを作り上げていたという(この地球を半周もする地域の中で話されている1000を超す言語に共通点が見つかっている)。ここで活躍した海の遊牧民は民族的なアイデンティティを持たず、国家のようなものには何の愛着持たなかった人々たちであった(ここで活躍した海洋民族は中国人と何の関係もない)。
ところが第二次大戦後、中国(最初は蒋介石政権)が南シナ海に九段線と言う境界線をひき、インドネシア沖まで延びる「牛の舌」状の広い領域を歴史的に中国の支配地域であった主張し、その固有の領土主権は中国の核心的利益であると喚きたてるようになった。
これに対してベトナム、フィリピン、マレーシアなどの沿岸諸国は自国の海岸線から200マイルをEEZと定めた国連海洋法条約に従って、南シナ海諸島の帰属を決めるべきだとして、常設仲裁裁判所に提訴している。
この関係国の主張を見てみると、中国の歴史的権利の主張は無理筋の議論のように見える。中国の指導部もそれはある程度分かっているようだが、国内の利益団体、特に軍や石油会社、沿岸の省の発言権が大きく、国内問題から目をそらせたい指導部にとっては遥か海中の岩礁の帰属が完璧な目くらましになる。中国の外交部の国内的なランキングは40位で、影響力は極めて小さいらしい。かくて、政府が大言壮語のレベルを上げるほど、あがった梯子を下りて地道な決着をつけるのが難しくなっていく。近隣諸国の間で「中国脅威論」はますます大きくなり、日、米、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドなどによる中国包囲網が形成されつつあり、今後も東南アジアの国際関係を毒し続けるだあろう。「U字型ライン」内の領有権を実力で通そうとすれば、アメリカとの正面衝突が待っている。両者の実力差を考えれば、今のところまずそういうことは起こりそうにないと言う。
筆者はこの本執筆の調査の段階で「兵器を用いての本物の戦争を始めたら、失うものばかりで、得るものはない」と言うことを、中国指導部は理解していることを確信したとか。しかし、戦争以外にあらゆる手段を使うつもりのようだから、低レベルの衝突がエスカレートして、外交的・軍事的危機が訪れることがないとは言えない。
漁業資源は兎も角も、石油・ガスなどの地下資源は「ゼロよりはまし」程度の埋蔵量に過ぎないとしたら、如何にもばかげた空騒ぎのように思える。それよりも世界の海上貿易量の半分以上が輸送される国際公共財として通商路が危機に瀕するという事態のほうが中国を含む東アジア諸国の経済にとってはるかに大きな問題であることを、中国の無知蒙昧な民衆に理解して欲しいものである。しかしそれは帝国主義時代の屈辱の歴史を巻き返し「偉大なる中華帝国の復権」をいきごむポピュリズムが猖獗する空気の中では所詮無理な希望なのだろうか?

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