Joseph Stinglitz「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」読後感
ノーベル賞経済学者スティグリッツがNYタイムズはじめ新聞や雑誌に寄稿した論文をあつめたもの。
現在アメリカ人の上位1%は毎年国民所得のおよそ1/4を懐にに収めている。所得ではなく資産で見ると、上位1%のは総資産の40%を支配している。今から25年前、上位1%の分け前は所得で12%で、資産で33%だった。格差は著しく広がっている。これは冷徹な資本主義の結果ではない。1%の最上層が自分の都合のいいように市場のルールを歪め、莫大な利益を手にし、その経済力で政治と政策に介入した結果なのだと言う。富裕層は富の力を使ってRentseekingで優位をほしいままにしている。
それは「1%の1%による1%のための政治」が米国の格差を拡大していると言うことだ。1人1票ではなく1ドル1票の金権政治が生み出した格差の拡大が経済や社会の不安定と混乱をもたらし、やがて人々を危機へと導く。米国の現在の経済格差は既に1929年の世界大恐慌当時と同じか、それ以上に大きなものとなっている。経済格差が有効需要の不足を生み出し、不況からの脱出を困難にしていると言う大恐慌の教訓とケインズの処方箋を忘れてしまったのだろうか?
子供は生まれるとき親を選べないのに、貧困の中に育たなければならない宿命を背負わされた子供たちは十分な教育を受けることが出来ず、一生貧困から抜け出せなくなってしまう。努力すれば成功し、金持ちになれるという機会均等のアメリカン・ドリームは今や単なる夢物語に過ぎない。結果の不平等が機会の不平等を生みだし、機会の不平等が結果の不平等となって固定化する悪循環となっている。
このような格差拡大が顕著になってきたのはレーガン政権以来であり、サッチャーの政策もレーガン政策に酷似しており、英国の米国同様に格差が激しくなっている。
所得の累進課税をレーガン以前に戻し、教育、社会インフラへ積極的に投資し、低所得者層対策に意を用いて、所得の再配分を積極的に推進して、既に虚妄であることが証明されつつあるTrickle-down理論よりも、むしろTrickle-upによって、最上層における過剰な富と所得の集中、中間層の空洞化、最下層における貧困の増加を是正しなければならない。それにしても「アメリカが抱く規制緩和への盲目的愛情」にに強い影響を受け、アメリカの二の舞の悲劇へと引き込もうとしている日本の新自由主義者・市場原理主義者にも困ったものだ。
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Posted by: http://www.sucg.fr/ | March 24, 2016 07:20 PM