« 防衛大学校キャンパス探訪記 | Main | 「香港―中国と向き合う自由都市」読後感 »

February 28, 2016

「新・韓国現代史」読後感―韓国の挺対協は停滞協か?

 筆者は在日韓国人二世、法政大学文学部から中央大学法学部に学士入学し、法政大の大学院を出た政治学、韓国政治史専攻の学者。
 最近朴槿恵大統領の執拗な謝罪要求や言いつけ外交で日本の世論で嫌韓論が渦巻く中、半ば当事者である在日韓国人学者がどう考えているかに関心があったので、この書物を手にしたが、いろいろと知らない事実もあり、それなりに面白かった。しかし学者としては19世紀のヨーロッパ帝国主義勢力東漸の脅威にどう立ち向かうべきかについて、幕末以来の日本が如何に苦悩し、格闘したか、その時中国や韓国がどう対応したかについての長い歴史的なPerspectiveに立った、学者らしい分析、即ち当時の極東の国際政治情勢の中にあって、日本にどういう選択肢があったか、韓国は如何行動しえたか、如何行動すべきだったか、についての考察を加えることなく、更には「日本の韓国に対する植民地支配は、千万多幸であり、呪詛するよりもむしろ祝福」だと書いた韓昇助高麗大名誉教授の論文や安乘直ニューライト財団理事長の慰安婦問題についての「強制動員された一部慰安婦経験者の証言はあるが、韓日両国にはどこにも客観的な資料はない」と言う言説が何故韓国内にも存在するかを分析することなく、歴史認識の逆流、Backlashと切り捨てるのは学者らしくないと残念に思った。
しかし、徳川時代の朝鮮通信使を介しての親善関係について、朝鮮との秀吉の朝鮮侵略の戦後処理にあたって、徳川政権は「大君号」の設定などの改革を断行し、これを朝鮮側に承認させた。この大君号の設定によって、朝鮮国王は徳川将軍と対等でありながら、将軍の上に天皇を置くことによって、幕藩体制国家全体として朝鮮の上に置くことを意味したという指摘。天皇の存在が19世紀半ば欧米からの未知の脅威に対抗しなければならなくなった際、日本の優位性の拠り所となり、尊王攘夷論が幕藩体制の身分秩序を打破することになったという指摘は面白い。
 それにしても韓国は第二次大戦の戦後処理にあたって、東西冷戦の最前線に置かれ、1947年の3.1済州島島発砲事件.1950年の朝鮮戦争、1980年の光州事件などの業火に焼かれ、それでも学生や労働者がデモや街頭運動を繰り返して、民主化を勝ち取っていった歴史は感動的である。文教授からすれば、その到達点が廬武鉉政権であり、そこでHappy Endとなるはずだったのに(前著:韓国現代史はそう言うハッピーエンド物語だったようだ)、はからずも歴史の逆流に遭遇して、「新・韓国現代史」を書かなければならないのは残念と言う結論だろうか?
 この本を読み終えた後、2/16の朝日に小倉紀蔵京大教授(東大文ドイツ語科→電通→ソウル大院→東海大→京大)の「慰安婦問題の明日」というインタービュー記事が出た。「政治的解決の合意、対立や摩擦を含め日韓共通の財産」だ捉え、「慰安婦の支援―多様な歴史観包摂する努力を」と言う提言であり、前向きな提言だと思った。
「戦時の女性の人権蹂躙と言うのは日本だけではなく、米欧も抱えている問題。パンドラの箱を開けまいと避けて来た。日韓の今回の合意で二度とこんなことが起きないように一緒にやって行こうということで、日韓がリードしている。」安倍首相の談話「21世紀こそ、女性の人権が傷つけられることことのない世紀とするため、世界をリードしていく」と言うのはその伏線であった。
 韓国には支配国・日本に抵抗した勢力に正統性があるが、それを断ち切って、日本と妥協し、国交を結んだのは朴槿恵大統領の父、朴正熙元大統領だったという歴史観が強く残っている。娘の朴大統領はそのコンプレックスから逃れようと日本に「正しい歴史認識を」と迫ってきたのに、よく決断したものである。それだけ北朝鮮の脅威が差し迫っていると感じたのか、それとも米国に「中国とつるんで慰安婦問題に何時まで拘っているのだ」と二股外交を弾劾され、その解決をせっつかれたせいだろうか?
 韓国が作る「慰安婦支援財団」も、ある一つの考え方で仕切るのではなく、認識の幅を広げる必要がある。特定のナショナリズムに支配されない多様な歴史観を包摂できるかがカギである。日本の保守派であっても、事実に基づく研究をしている人ならば意見を聞くべきである。『20万人の強制連行』とか『奴隷狩り』などと言う認識だけが独り歩きし、それを認めない人はみんな歴史修正主義者であるかのようなレッテルを張り付けるこの本の著者:文京洙教授の見解は学者の意見と言うよりも挺対協の主張を無批判に反芻するただのデマゴーグと言うべきではないか? 挺対協はむしろ停滞協と改称すべきではないか?

|

« 防衛大学校キャンパス探訪記 | Main | 「香港―中国と向き合う自由都市」読後感 »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「新・韓国現代史」読後感―韓国の挺対協は停滞協か?:

« 防衛大学校キャンパス探訪記 | Main | 「香港―中国と向き合う自由都市」読後感 »