« August 2014 | Main | May 2015 »

December 11, 2014

「強欲の帝国―ウォール街に乗っ取られたアメリカ」の読後感

先日チャールズ・ファーガソンの「強欲の帝国―ウォール街に乗っ取られたアメリカ」Corporate Criminals, Political Corruption, and Hijacking of America を読み了えました。
本書は米国が1970年代以降陥ってしまった金権腐敗体質に対する告発の書である。1980年代に入って急速に進んだ金融規制緩和がサブプライム・ローンの破綻→2008年のリーマンショックと言うバブル崩壊を生み出し、全世界の経済を混乱に陥れた。CDOや合成CDO、CDSなどの金融デリバティブなどを駆使しての金融犯罪―クズ証券だと知りぬいた上で、そのような不動産担保証券を組成し、確実にデフォールトする証券にAAAの格付けをとって、売りつけた。自社はその証券の先物を大量に売った上で、現物も売りまくって、損失を免れた上、そのクズ担保付証券を破綻に追い込み、自分はチャッカリとCDSから保険金を受け取る―を白昼公然と敢行されたにも拘らず、金融界の誰一人罪に問われていない。
内容が金融の複雑な仕組みに拘わるものだけに、門外漢の小生には全てのシナリオが理解できたわけではないが、ひどい話だと思う。それらの不正によって大もうけした金融機関従事者が国富を略奪したことで、米国の所得格差は拡大し、1980年には申告所得総額に占める上位10%のシェアは1/3をわずかに上回る程度だったものが2007年には49.7%になったという。
規制緩和によって促進された業界の寡占化、金融部門の政治力の拡大、金融部門を始めとする有力産業に取り込まれた2大政党。所得格差が拡大する中で十分な教育を受けられなくなった子供たち、教育の劣化。最も衝撃的なのは学問の分野でもカネがものを言う傾向が強まってきたと言う指摘である。著名な学者が企業の取締役として、コンサルタントとして、裁判の専門家証人として、報酬をもらって有力企業のために働く例が激増している。代表格がラリー・サマーズ、ローラ・タイソンだと言う。日本のノバルティス事件など可愛いものだ。また米政府の金融監督部門であるFRB、財務省、SECなど要職はすべて、ウォール街の金融機関出身者である。これらの政府高官が辞任後また証券会社や銀行のトップに戻っていく。これではまるで泥棒に刑務所の看守をやらせているようなものだ。民間/学界→政府高官→民間/学界の融通無碍の回転ドアー・システムは日本では民間の知恵・経験を行政に生かす理想的なシステムのように持て囃されているが、米国の腐敗状況を見ると、まだ日本の中立的な官僚システムのほうが害が少ないようにも思える(仮に国益よりも省益を中心に考える悪癖があるにしても)。
オバマは変革を支持する国民の圧倒的な付託を得て、それを実現する大きな政治的チャンスを手にしていたにも拘らず、ウォール街インサイダーのガイトナー、サマーズを要職に着け、寡頭勢力のお抱え大統領に堕してしまった。選挙用の改革者、理想主義者としての華麗な言辞は何処へ一体へ行ってしまったのか? それは単に彼の金融やビジネスについての経験・知識不足によるものか? それとも単に臆病者である所為か?
オバマの評価については日本でも「カーター政権の指導力不足、機能しない組織、無責任体質はひどかったと思う。これを覚えている人ほど、今のオバマ政権の体たらくがカーター政権のイメージと重なるのだろう。申し訳ないが、2009~12年の日本の民主党政権のようなものだった、と想像してもらえれば当たらずとも遠からずである」と評する人もいる。
アメリカ国民を奮起させ、不正を糺し、悪党どもを放り出すリーダーが出てこなければ、アメリカは危ない。
このアメリカの構造的腐敗状況は日本の未来像でもあると感じた。

| | Comments (275) | TrackBack (0)

« August 2014 | Main | May 2015 »