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May 26, 2014

「自滅する中国」読後感に関する中国人の反応

先日このBlogで「南シナ海でのベトナム・中国海洋権益衝突を読み解く」と言うタイトルで上記の著作を紹介したが、5/17中国人から下記のようなコメントが寄せられました。
これまでの「自游人の独り言」にはほとんど反応がなく、記録用に書いておくだけと思っていましたので、下記のコメントには感動しました。「徳は弧ならず」と言うには余りに気恥ずかしいですが・・・・・・・。
余談ですが、上記の著者 Luttwak氏は先日首相官邸を訪問し、安倍首相に露中関係について指南した由。
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中国人です。興味深く読ませていただきました。その本にも気になります。まさに書いてるとおりなんですね。残念ですが、中国の国内では今起こってる現象が何を示しているのか、中国がこれからどうなっていくのかを考える人はあんまりいないんですね。私は日本語や英語を勉強し、海外の文化に影響され生きてきましたから、物事を違う立場から見たり考えたりすることができました。外国語を知るってほんとに大事なんですね、特に中国みたいな情報閉鎖の国に住んでる人にとって。

Posted by: ミズキ・S・テン | May 17, 2014 at 02:23 AM

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May 25, 2014

進藤栄一筑波大名誉教授「アジア力の世紀」(岩波新書)を読む

進藤栄一筑波大名誉教授「アジア力の世紀」(岩波新書)を読み終えた。
進藤博士は1939年生まれ。昭和38年京大法卒(多分高坂正堯ゼミ)。アメリカ政治の研究者として出発したが、アジア専門家に転じ、現在、国際アジア共同体学会長、東アジア共同体評議会副議長を務める。
この本を手に取ったとき一瞬これは「アジア・力の時代」で、アジアは経済統合の歩みを止めて、Power Politicsの時代に入ったと言うことかと錯覚した。しかし読み進める内、この著作が博士の唱導する岡倉天心以来の「アジアはひとつ」、情報革命によって生産・通商のネットワーク化・モジュール化がアジア諸国の経済力と政治力を地域全体として押し上げ、Asia as Number Oneの時代が訪れると言う理想を謳いあげたものだということが判った。その意味で現状を「アジア・力の時代」と読むか、「アジア力の時代」と読むか?で、話が180度違う。
鄧小平が改革開放を唱え、故陽邦や趙紫陽が日中青年交流を意欲的に進めた時期には天心の理想が実現するのではないか錯覚させる時期があった。
しかし、天安門事件の悲劇の結果、江沢民が登場した後、強烈な反日教育でこの流れをぶち壊してしまった。中国はその後の急速な経済的台頭で、「大国の自閉症」症候群に陥り、その後は止まるところを知らないマイナスのスパイラルに陥っている。21世紀のこの時代に19世紀型のTerritory Gameを演じることに余念がない中国をどのようにして改心させるかと言う処方箋がない限り、この理想論は空しいと思う。
昨夜ある会で進藤博士がこの著作の内容について話することになっていたので、その辺を問いただしたいと思っていたが、風邪で欠席。その機会を逸した。残念。

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May 11, 2014

ポルトガル旅行雑感

 去る3月末から4月上旬にかけて「ポルトガル8日間の旅」に出かけた。その後、安倍首相が欧州諸国歴訪の際、訪れたリスボンのジェロニモ修道院、「ユーラシア大陸の地の涯」のロカ岬にも行った。
 それはまさにユーラシア大陸の地の果てへの旅であるだけに、実質的には6日間の滞在でしかなかったが、世界遺産を8箇所も訪れることが出来たのは収穫であった。
 そこは全く欧州の辺境と言う感じで、日本からの直行便は勿論ない。フランクフルトまではJAL便だったが、欧州主要空港からもポルトガル行きの便数は少ないらしく、同空港では乗り換えに4時間を要した。しかも接続便が遅れ、ホテルに着いたのはその日が変わる寸前の2355だった。心身ともに疲労困憊を感じた。まさにはるばる地の果てに来たという感じである。
 久しぶりにパックツアーでポルトガルに行ってみようと思った第一の理由は、日本とポルトガルの縁の深さである。
 欧州の大航海時代が始まって、余り年数をおかず、ポルトガル人が日本の種子島フィリを訪れ、鉄砲をもたらして、ある種の軍事技術革命を惹起し、織田信長の天下布武の基盤となった。この南蛮人の近世日本に及ぼした影響は計り知れない。ボタン、襦袢、メリヤス、カステラ、天麩羅、パン、カルタ、マント、カッパ、ビロード、ラシャ、フラスコなどの日常語を拾い上げただけでもその影響力の大きさが伺える。
 第二の理由はポルトガルが大航海時代の幕開けを主導し、海上貿易国家として最初の繁栄をみた近世海運の先達の歴史に海運人として多大の興味を懐いていたからである。
 しかし今回ポルトガルを訪問する前は今や世界政治経済の主流からは程遠いこの国のことにそれ程の知識はなかった。
 この国の歴史はそれ程古くはない。キリスト教騎士団の活躍によって、スペインよりも早く国土回復運動(レコンキスタ)に成功したが、スペインによって併合されそうになる。軍事貴族が支配するスペインの支配下に置かれることを嫌ったリスボン市民たち(堺と同じような貿易商人たち)がエンリケ航海王子の父ジョアン一世を押し立てて、スペイン軍をリスボン西方の平野で打ち破り、独立を保ったと言う。しかし、ポルトガル人にとって、当面の敵はイスラム教徒軍だが、後門の狼はスペインであった。この安全保障上の見地からジョアン一世は英国と同盟条約を結んだ。以後600年、一度も破られたことがなく、外交史上奇跡の条約とされていると言う。今でも有効なのだろうか? 学生時代にはかなり熱心に国際法を勉強した積りではあったが、そのような事実は寡聞にして、全く知らなかった。
 この同盟の絆としてジョアン一世は英国の王族ランカスター家からフィピッペ王妃を娶った。フィリッペ王妃は弾むような知的好奇心に富んだ聡明な女性で、彼女の遺伝を受けた3人の息子たちのうち長男は法律の知識を、次男は地理学の知識を、三男エンリケ航海王子は天文、航海、造船に関する知識を吸収し、蓄積し、国家建設の基盤にしたと言う。 今回巡った至るところにジョアン一世、エンリケ航海王子の銅像、墓、記念碑などが見られた。まさに我国で言えば神武天皇、日本武尊、聖徳太子を一緒にしたような建国神話の時代が、ジョアン一世、フィリッペ王妃、エンリケ航海王子、バスコ・ダ・ガマの時代だったのだろう。
 次のジョアン2世の時代には喜望峰が発見され、インドへに航路が開かれる。しかし、その次のジョアン3世の時代に絶頂期を迎えたが、その後衰退に向かう。特に1755年のリスボン大地震の後は再び勢力を取り戻すことはなかった。その理由を司馬遼太郎はポルトガルにはオランダやイギリスのようなビジネスの思想や技術がなかったからだと述べているが、果たしてそうなのだろうか? 
 そうであれば、ポルトガルの繁栄は高々300年くらいと言うことになる。しかしその間に築いた世界遺産の夥しさ、広大さ、マヌエル様式の壮麗華麗さ(マヌエル様式と言うのは海洋国家ポルトガルのアイデンティティを誇示するロープ、鎖、などの船具、海藻、熱帯果物などをあしらったアーチを囲む装飾)には圧倒される。大航海時代の貿易の利益、植民地からの略奪と言うのは計り知れないほど大きかったのであろうか?
 我国も東北大地震から遂に立ち直れず、衰退の一路というようなことにならなければ良いが・・・・・。
 イベリア半島にあるポルトガルのことをスペインと一からげに乾燥した地中海気候、赤茶けた瓦礫だらけの平野だと漠然とした先入観を抱いていたが、最初の訪問地ポルトについてからリスボンを離れるまで、毎日雨が降り、時には熱帯のような激しい驟雨に見まれた。雨量が多い所為か、ふんだんに緑の丘と谷間と平野が広がり、しかも常に民家が目に入ってきて、日本の田舎を旅しているような安らぎを感じた。またフランスのようにTGVで走っても、緑の牧場が広がり、牛や羊は見えるが、人影や家影がパリ近郊に近づくまで殆ど見えないのとは全く異なる。料理も魚介類が多く、日本人の口に合う。
 西洋文明の最初の伝達者がスペインのような無法で残虐な略奪者ではなく、比較的穏やかなポルトガル人であったことは、我国にとって幸せだったのではないか?と思った。
 
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May 09, 2014

南シナ海でのベトナム・中国海洋権益衝突を読み解く

大分以前だが、「自滅する中国―なぜ世界帝国になれないのか」(芙蓉書房出版)と言う書物を読んだことがある。今回の南シナ海での衝突は「中国が大小の国家を反中同盟と言う形で団結させてしまい、これからの自分たちの拡大を相手に封じ込められてしまうように立ち回ってしまうと言う自滅的なプロセスに陥りつつある」と言うこの書物の予測が実現しつつあるように思える

<「自滅する中国」読後感>
著者Edwward Luttwak氏はルーマニア生まれのユダヤ人。人相は余りよくないが、論旨は明快で的確。ロンドン大学で経済学を学び、ジョンズ・ホプキンス大学で学位をとった。戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。米国の国防系Establishmentの一員。
「これからの世界は中国の台頭によって形成されていく」いう、現在広く信じられている考え方が如何にに間違っているかを論証しようとしてる。それを読み解くキーワードは「巨大国の自閉症」「蛮夷操作」「中国の天下意識―中華思想」であり、急速な強国化、威嚇的な対外政策が他国の警戒心を呼び覚まし、余計な反発を呼び、却って成功への道を閉ざしてしまうと言う戦略論の逆説は面白い。

その他の面白かった論点を列記すると、

1.古代の愚かな知恵―中国人には大戦略能力がない。
  中国人は4千年の歴史を誇り、王朝の栄枯盛衰=滅亡・交代が絶えなかった。その絶えざる闘争が種々の兵法書を生み出した。中でも孫子の兵法は有名だが、そこから中国人は自らを戦略に優れた民族だと勘違いし、影響を受けた周辺諸国も「さすが中国人はすごい」と勘違いしている。古代からの知恵とされる兵法書は同一文化内で通用する議論。200近い主権国家がひしめき合う現在の国際社会では通用しない。「外国との間の長年にわたる未解決の紛争は故意に危機を煽ることで解決できる」という考え方、欺瞞や策略や奇襲攻撃への過剰な信奉。これでは、まともで非挑発的な大戦略を採用できなくなってしまう。

2.中国人の天下意識=華夷秩序と蛮夷操作
  中国人は4千年の輝ける歴史はアヘン戦争以来一時的に陰りを見せただけで、再び中華民族の偉大さを回復し、東アジア地域に天下システム(華夷秩序、朝貢システム)を復活しようとしている。しかし、欧米世界がルネッサンス期のイタリアで形成され、多数の主権国家がひしめくヨーロッパで発展を遂げた国際法秩序のルール、すなわち「主権国家は法的に平等」と言う建前(実際には力の差があり、この建前は偽善的ではあるが)と、中国の天下=華夷秩序とどちらが普遍性があるか、居心地がよいかは自明であろう。あらゆる独立国家は必ず絶対的な主権を主張するものだが、外国への従属に言いなりになる国家もある。その稀な国家が韓国である。
  その華夷秩序を維持する戦術が蛮夷操作である。それは自国以外は東夷、西戎、南蛮、北狄の野蛮人と見なして、訪問客には賄賂=汚職とも言うべき、過剰な接待・贈り物を供与する「蛮夷操作」で、どのようにでも外国人を意のままに操れると考えている。「キッシンジャー回顧録:中国」は漢民族の長期的な戦略眼を媚びへつらって賞賛するところから始まる「キッシンジャー回顧録:中国」などは蛮夷操作に引っかかった典型であろう。精華大学の閻学通・国際問題研究院長の「中国は急速に買う力を持ったことで、世界から求められる存在になっている。経済から始まり、最後は中国の価値観が世界に影響を与えるようになる」(朝日4/11)の発言も蛮夷操作の余地が広がって行くとのあからさまな宣言である。

3.日本の保守派の対中コンプレックス
  日本の保守派といえども中国の独善的な天下意識から無縁な訳ではない。。旧世代の人々(中曽根元首相を含む)は日本人が中国で行った悪事についての罪悪感と、中国でのビジネスチャンスが拡大していると言う認識から日本の過去と将来を中国の天下システムの中に見ると言う融和的な見解が見られた。「中国の天下体制の中―つまり戦略境界線の内側―で繁栄する日本」と言う中曽根ビジョンは、中国の威嚇的な拡張主義的な対外政策によって絶対にありえない選択肢となってしまった。
日本の対米政策は対中政策と補完関係にある訳だが、保守派何度も米国依存を減らし、中国と米国と等距離を模索しようとする動きが根強く存在するが、その流れは大きく退潮してしまった。

4.大国の自閉症=第1次大戦前のドイツと同じ病
  安倍首相が現在の東アジア情勢を第1次大戦前のドイツ・欧州情勢との類似に言及し、物議を醸したが、ルトワック氏もその類似を主たる論点に据えている。
  1890年代から第1次大戦までのドイツは産業革新の面で英国を追い抜きつつあった。化学分野、鉄鋼産業、電気産業でドイツの優位はゆるぎないものになったのみならず、階級闘争に明け暮れる英国を尻目に老人・障害者年金、健康保険と労災保険の導入によって、労働者の環境は英国よりも遥かによく守られていた。
  その赫々たる急速な台頭という成功が傲慢さを生み、自制心を効かなくさせてしまった。海軍の大拡張に乗り出したことによって、英国の警戒心を掻き立てた。英国は宿敵フランスとの協商を成立させ、専制国家として違和感を隠さなかったロシアとも同盟関係を樹立した。
  新興大国の急速な台頭、一見大成功は得てして独善的傲慢さに陥り、他国の心理・動向が見えなくなってしまい、自制心が効かなくなってしまうものらしい。しかも戦術面ではシュリーフェンのような戦術の天才が出現するから始末が悪い。そして大戦略を見失ってしまうのだ。
  過度の成功を収めた中国には、過度の成功を収めた昔のドイツと同じように、中国はその威嚇的な対外姿勢でヴェトナム(中共とイデオロギーを同じくする共産主義国家で、かつて米国と戦争したにもかかわらず)、蒙古、フィリピン(1992年には高まる反米感情を背景にスービック基地から米海軍を追い出してしまった)を敵に回してしまい、オーストラリアは対中貿易の最大受益国にであるにもかかわらず、率先して対中包囲網の形成を主導するにいたった。「中国が大小の国家を反中同盟と言う形で団結させてしまい、これからの自分たちの拡大を相手に封じ込められてしまうように立ち回ってしまう」と言う自滅的なプロセスに陥りつつある。
  
  著者の地政学・地経学的学識を裏づけにした中国への警告は説得力がある。一読の価値ありと考える。

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