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May 25, 2011

「梅棹忠夫語る」(日経プレミアシリーズ)読了。

梅棹忠夫は平成22年7月3日に亡くなったが、その直前に国立民族博物館での後輩同僚小山修三氏を座談の相手として遺したのがこの書物である。全編梅棹らしい独創的なロジックが披露され、相手かまわず切りまくる毒舌が心地よい。
和辻哲郎の「風土」は間違いだらけの本だとこき下ろしたかと思うと、稀代の大政治学者と言われている丸山真男が京大に講演に来た時、途中で席を立ってしまったという。「こんなあほらしいもん、ただのマルクスの亜流やないか。ただマルクスを日本に適用しただけのことで、何の独創性もない」」って嘯いて、桑原さんに「ああいうことをやっちゃいかん。あれは、東京で偉いやぞ」と、たしなめられたとか。また最近また評価が高まっている新渡戸稲造の「武士道」については、「読んでへん」とにべもない。
「自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の頭で考える、これが大事や」。「あいつは足で学問しよる。学問は頭でするもんや」と批判されて、「頭でするもんやということは、ひとの本をよめということやな」と反論している。その辺が丸山真男など単にマルクスの亜流と言う評価に繋がるのだろう。
「梅棹のいうことは単なる思いつきにすぎん」といわれても、「わたしに言わせたら、思いつきこそ独創や」と動じない。また「できない人間ほど権威をかざす」として、「権威でのぞんでくるのが一番嫌いや」とも。全編このような痛快な言葉が書き連ねられている。
そのような考え方や行動は三高山岳部の伝統・気風によって培われたものであろう。三高山岳部では新入生からいきなり、先輩にいっさい敬語をつかってはいけない。「さん」もいかん、全部呼び捨てだったという。その気風は何となく私が勤めていた日本郵船の気風に似ている。あの会社では「社長」「会長」「部長」などとは絶対に言わなかった。全て「菊池さん」「宮岡さん」などと「さん」づけで呼んでいた。何となく懐かしさを感じる。
いずれにせよ、一読を勧められる書物である。また第二次世界大戦の敗戦で打ちひしがれた日本人に向かって、「日本文明はたった一度の失敗で消えてしまうほど脆弱なものではない。自信を持って進むべきだ」と言い続けたとも言う。閉塞感に苛まれる今の日本人にも勇気づけられる言葉である。
是非一度吹田の国立民族博物館に行ってみなければ、・・・・・。

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May 18, 2011

「フェイスブック―若き天才の野望」

デビット・カークパトリック(元フォーチュン記者)「フェイスブック―若き天才の野望」(日経BP社)読了。
Facebookがエジプトやチュニジアの政権打倒に大きな影響力を及ぼしたと言う報道に刺激されて、、Facebookに登録してみたものの、それが何ものか良く分からなかった。
しかしこの本を読んでみて、創設者ザッカーバーグが何を目指そうとしたのか、その資金調達のメカニズム―シリコンバレーに巣くうベンチャー投資家、エンジェル投資家の生態=行動形態―などがある程度判った。またフェースブックと言うのがアメリカの大学でオリエンテーションの際、配布する新入生の顔写真入名簿のことで、それをネット化しようとしたのが基点であること、2003年9月ハーバード大学コンピューター科学科2年生になったばかりのザッカーバーグが思いつき、7年間にして世界の5億人(中国、インドに次ぐ第三の世界大国)を人をつなぐSocial Network(会社の時価総額は500億ドル=4兆2000億円とも言われる)に育て上げたプロセスが余すところ無く描かれている。
フェースブックを貫いて流れるザッカーバーグの哲学は「自分が誰であるかを隠すことなく、どの友達に対しても一貫性をもって行動すれば、健全な社会づくりに貢献できる。もっとオープンで透明な世界では、人々が社会規範を尊重し、責任ある行動をするようになる」「オープン性の高いところまで人々を持っていくこと―それは大きな挑戦だ」と言うことのようだ。実は実名主義にこだわるのもそれが原点なのだ。個人情報保護法だとか何とか言って、プライバシーを隠すのが至上命題といわんばかりの行過ぎた我が国の現代の風潮には大きな挑戦状を突きつけているのかも知れない。
それにしても、Tシャツに短パン、アディダスのサンダルがお気に入りと言う一見高校生にしか見えない弱冠20歳の若者に天才のカリスマを見出し、それに巨額の投資をして、この天才を育て上げた米国のベンチャー・キャピタルを初めとする企業家精神を尊ぶ風土にはとても勝てないと感心した。

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