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January 10, 2011

「大川周明―イスラムと天皇のはざまで」

 臼杵陽日本女子大教授の「大川周明―イスラムと天皇のはざまで」を読了。 
 戦前北一輝と共に国家改造論の指導者で、天皇への帰一、民主主義・個人主義の否定、と言った日本ファッシズムの中核として、国体イデオロギーを担い、敗戦後は民間人としてただ一人A級戦犯として訴追されたが、東条の頭を叩いて、狂人として免訴となった。 
 また大川が東京裁判は「正常な訴訟手続きではなく、軍事行動の一種だ」と考えていたこと、イラク戦後のサダーム・フセイン裁判は東京裁判と歴史的な連続性があり、「強者の驕り」と言う点では、それ以上のいかがわしさがあったとの著者の指摘は面白い。 
 しかし、大川は第一次世界大戦前後から敗戦に至るまで一貫してイスラム研究を続けていたと言う。彼の「回教概論」は純粋の学術論文で、「日本のイスラム研究の最高水準だ」と中国文学者竹内好が激賞しているとか。
 「宗教と政治とに間一髪なき」イスラムを君民一体の天皇制の理想を見たとも論じられている。 
 日本は中国とインドから儒教と仏教の文明を取り入れ、消化しているので「アジアは一つ」であり、「アジア文明を代表するのが日本文明である」と言う岡倉天心からのアジア主義の論理が何となく分かったように思える。
 少なくとの大川の「回教概論」と自伝「安楽の門」及びコーランの大川の翻訳「古蘭」は読んでみなければなるまい。
 またこの本でイスラム法による統治を重視する現世主義がスンニ派であり、個人の内面を重視し、超越的で全知全能の絶対者であるアッラーの前に全て服従し、戒律を遵奉する律法的側面が強いのがシーア派(或いはペルシャ的、イラン的)だと言う解説で、何となくイランとアラブの対立の構造が理解できたように思う。

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