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December 01, 2007

秘密政治警察(KGB)国家ロシアの復活とその限界

 ロシアのプーチン大統領は10月1日、政権与党「統一ロシア」の党大会で演説し、自らが12月の下院選挙で同党の比例代表名簿の第1位になることに賛成すると述べた。これに伴い首相に就任する可能性も排除しなかった。国民の支持を集める大統領が名簿入りすることで同党の圧勝は確実となる。来春の大統領辞任後も“プーチン体制”を維持する動きを本格化したといえそうだ。
 然らばプーチン体制はどのようにして形成され、何処に向かおうとしているのだろうか?

<ロシア武力威嚇外交の復権>
 ソ連の崩壊以降中止していた原爆搭載機の世界的規模でのパトロール飛行の再開に当たり、プーチン大統領は「わがロシア空軍のパイロット達は長期にわたって、翼を奪われ、地上に貼り付けになっていた。彼らは新しい活躍の場を与えられて、欣喜雀躍している」と演説した。それ以前にも中国と共同軍事演習を実施したし、地中海に海軍基地を再開する交渉を開始している。また北極海の海底にチタン製のロシア国旗を打ち立てて、領有権主張の足がかりにしようとしているなどと、ロシアの武力威嚇外交が目に余り始めた。ソビエト連邦は崩壊し、共産主義が葬られて久しいのに、プーチンはロシアと言う凶暴な熊が戻ってきたことを世界に誇示しようとしている。 ロシアの権力中枢、クレムリンを牛耳るプーチンの関心事は「KGB政権」の維持・発展とそれを支える資源利権の独占にある。
 ①石油と②ガスと③希少金属、それと④武器輸出。これがプーチンKGB政権の利権とパワーの源泉であると言われている。
 どうしてこのような事態になったのか? 欧州の一員になろうと指向したゴルバチョフ時代の路線からの逸脱はどうして生じたのか? 欧米諸国政府の失敗は何処にあったのか? 友好的なロシアを失ったのは誰の責任か? 
 
<プーチン登場の謎>
 しかし、このような強面のロシアの復権にとって外部からの要因は二次的なものに過ぎない。プーチンがどのようにしてクレムリンの最高権力を手に入れ、その支配を強化したかを理解する為には、その事態は旧KGBの文化、心理状況と世界観が見事に復活してきた証拠と見るのが最善最短の道である。
 最初はエリツィンの首相として、次いで大統領の後継者となるために、プーチンが無名の存在から表舞台に登場したときには、欧米諸国の中には、短期間ではあるがKGBの後身であるFSB長官を務めた、このKGB元高官のことを聞いたことのある人は殆どいなかった。プーチンが大統領になる直前に「FSBのスパイの一団が密かに仮面をかぶって、ロシア連邦政府に潜入して、活動し、その任務を完遂した」と仲間内で話したと言う。プーチンが大統領在任二期の間に、FSBとその姉妹機関の出身者が政府、メディア、経済界、軍部と治安機関の実権を掌握した。今や政府高官の1/4はシロビキである。ロシア語でシロビキとは武力派と言う意味で、FSB出身者だけではなく、広く軍関係者、その他の治安関係機関出身者を含む概念である。若しシロビキを単に治安関係機関と関係のあった人々と言う範囲にまで広げると、政府高官の実に3/4はシロビキだということになる。これらの人々は心理的に同質のグループであって、ボルシェビーキの最初の秘密政治警察機関であるチェカー(Cheka) にまで遡るルーツに極めて忠実である。
 
<KGBクーデターの失敗とKGBの復讐>
 所謂シロビキを突き動かしている動機は何なのか? それは1991年8月にKGBクーデターが失敗した際の裏切られたと言う感情と屈辱感、及び1990年代前半に彼らを蔑ろにした人たちへの復讐であると言う。
 KGBのクーデターは1991年8月19日、ゴルバチョフ大統領と各主権共和国指導者が「各主権共和国は独立した共和国として共通の大統領、外交、軍事政策下に連合する」という新連邦条約に調印する前日、「国家非常事態委員会」を称するグループがモスクワでの権力奪取を試みた。ゲンナジー・ヤナーエフ副大統領を始めとする守旧派グループによる体制維持が目的の反改革クーデターはウラジーミル・クリュチコフKGB議長が計画したものである。守旧派は新連邦条約がいくつかの小さな共和国、特にエストニア、ラトビア、リトアニアと言った国々の完全独立に向けた動きを促進するだろうという恐れから同条約に反対した。彼らは、新連邦条約は各主権共和国へ権力を過度に分散させすぎたものだと見なした。
 シロビキにはいろいろなイデオロギーの持主がいるが、ソビエット連邦の崩壊を20世紀最大の地政学的大災害であると見る点では共通しており、ロシアは辱めを受けたと言う民衆に広がった感情を利用して、かつてのソビエト連邦のような強力な国家を創りたいと熱望している。
 KGBクーデターはロシア共和国大統領エリツィンがクーデターへの反対に立ち上がったことにより、失敗に終わった。エリツィンは8月19日午前11時に記者会見を行い「クーデターは違憲、国家非常事態委員会は非合法」との声明を発表した。エリツィンはゴルバチョフ大統領が国民の前に姿を見せること、臨時人民代議員大会の招集などを要求、自ら戦車の上で旗を振りゼネストを呼掛け戦車兵を説得、市民はロシア共和国最高会議ビル(別名:ホワイトハウス)周辺にバリケードを構築した。クーデターには陸軍最新鋭部隊と空軍は参加しなかった。大勢が決した22日歓喜した群集はKGB本部ビルに向かい、KGBの創設者ゼェルジンスキーの銅像をクレーンで引き倒した。KGBの残党達はゴルバチョフやエリツィン、さらにはクーデターの首謀者達に裏切られたと感じた。
 この裏切られたと言う感情と屈辱感はロシア全国及び海外に展開したいた50万人のKGBのスパイ達の共通の思いとなった。当時KGBの中佐だったプーチンもその一員であったことは言うまでもない。「彼らの勝利を短命なものにしてみせる」と密かに誓ったと言う。

<インテリ集団KGBとペレストロイカ>
 プーチンが類稀なる政治家として尊敬するのは、ブレジネフ共産党書記長の後継者となったユリ・アンドロポフKGB長官であると言う。アンドロポフはソビエト連邦とその政治システムを温存するために、停滞しているソビエト経済を改革しようと試みたが、これこそがプーチンのモデルである。
 1960年代と1970年代にKGBに入隊したスタッフ達(プーチンは1975年入隊)は高等教育を受けており、プラグマチックな考え方を身に付けていたので、ソビエト経済の悲惨な状態や共産党幹部の旧態依然たる状況を熟知していた。KGBこそがゴルバチョフが始めたペレストロイカと言う曖昧な改革政策の原動力の一つであった。ペレストロイカの改革はソビエト連邦を延命させると言う意味があった。しかし、ペレストロイカがKGBの存在を危うくし始めた時、KGBはゴルバチョフに対するクーデターに決起したのである。これが逆にソビエト連邦を崩壊に追い込んだのは皮肉であった。
 クーデター側の敗北はロシアがKGB的な秘密警察組織を廃止する歴史的な機会であった。「もしゴルバチョフかエリツィンのどちらかが、1991年の秋にKGBを解体する勇気を持ち合わせていたら、さしたる抵抗に遭うことなくKGBを解体できたであろう」と言われている。ゴルバチョフもエリツィンもKGBを解体する代わりに微温的な改革を試みたに過ぎない。
 KGBの「青い血(名門の血統と言う意味)」、即ち中心的エリートの諜報担当の第一局は独立した情報組織となり、それ以外の部局は数個の組織に分割された。その後改革は頓挫し、これらの組織は治安省に再統合された。そして治安省が国家機関のみならず、企業体にも予備役を派遣するようになった。間もなくKGBの官僚が税務警察と税関の主要ポストを占めるようになった。1993年末にはエリツィン自身が認めたように、KGBを再編成しようとする試みは表面的で見せかけのだけのものに堕してしまった。「秘密政治警察組織は温存され、復活してしまった」とエリツインは率直に認めている。
 しかしながら、エリツィンはKGBの復活を許したものの、KGBを権力基盤として利用しようとはしなかった。

<エリツィン時代の屈辱―オリガルヒの用心棒として生き延びる>
 だからといって、KGBはエリツィン時代に良い思いをしたわけではない。事実KGBはソ連邦解体後の遺産分割からは完全に疎外されていた。更に悪いことに、KGBは機を見るに敏な日和見主義者の小グループに出し抜かれて、排除されてしまった。日和見主義者の多くはKGBが忌み嫌うユダヤ人たちであり、後にオリガルヒ(新興財閥)と呼ばれるようになった。オリガルヒは国有財産である天然資源や民営化された資産の殆どを強奪してしまった。KGB官僚は一文無しで、給料の支払いも滞りがちであったその時期に、オリガルヒどもがぬくぬくと大金持ちに成り上がっていくのを、指をくわえて見ていなければならなかった。
 一部のKGB官僚はオリガルヒに彼らの得意技を提供することで巧く立ち回った。過激な犯罪や強請りから自分自身を護るために、オリガルヒはKGBの一部を私有化しようとした。惜しむことなく多額の費用を投じた巨大なオリガルヒの警備部門はKGBの元官僚たちがそのスタッフとなり、運営に当たった。オリガルヒはKGBの高官をコンサルタントとして雇った。反対派取締りの元締めであった第五局長官のFillip Bobkovはメディア王のVladimir Guisinskyに雇われた。KGBスポークスマンのKondaurovは大手石油会社ユーコスの所有者Mikhail Khodorkovsky のために働いた。FSBに留まっていたのは寧ろ二流の人材に過ぎなかった。
 下級官僚達はロシアの富豪たちのボディガードとして働いた。昨年ロンドンでリトビエンコを殺害したとされる容疑者Anrrei Lugovoiは英国に亡命を余儀なくされたベレゾフスキーのガードマンをしていた。KGBの退職者を人材供給源とする何百もの警備会社が全国各地に設立されたが、彼らはKGBとその同僚達との絆を維持していた。警備会社のガードマン8万人のスポークスマンを務めるKGB特別襲撃部隊の元隊員は彼らの思いを次のように語っている。

 「不遇の1990年代に於ける我々の目的はただ一つだった。生き延びて我々の技能を温存することであった。我々はFSBに留まった人たちとは切り離された無縁の存在になったと考えたこともなかった。我々はFSBの現役と全てを共有しており、我々の仕事を別の形で国益に奉仕する手段だと考えた。そして再び我々が必要とされる時が来ると信じていた」と。

<仲間内で国家を私物化―経済界にも張り巡らされたKGBネットワーク>
 1999年の大晦日にその時がやって来た。エリツィンが辞職し、KGBに対しては反感を懐いていたにも拘わらず、プーチンを大統領代行に任命して政府の実権を譲り渡した。それより1年半前の1998年7月にはエリツィンはプーチンをFSBの長官に任命し、一年後の1999年8月には首相に任命していたのである。
 プーチンは長年の野望を実現する機会を待っていたかのように、彼の最初の仕事は国家の支配を復活し、政治権力を強化し、オリガルヒや地方政府の知事、メディア、議会、反対党、及びNGOなどの影響力を骨抜きにすることであった。プーチンのKGB時代の仲間がこの仕事に大いに貢献した。
 政治的に最も影響力を行使していたオリガルヒのベレゾフスキーとグイシンスキー――プーチンが権力を握るのを助けた――は国外に追放されて、両者が支配していたTVチャンネルは国家の手に帰した。ロシア最大の富豪ホドルコフスキーは頑強であった。何度も警告を受けながら、反対党とNGOを支援し続け、ロシアを出て行くことを拒否した。2003年にFSBは彼を逮捕し、見せしめの裁判の後、投獄された。
 頑強に抵抗する地方の知事達に対処するために、プーチンは査察と監督権を有する監察使を送り込んだ。その殆どはKGBの元職員であった。地方知事は予算権と上院での議席を奪われた。そして選挙民は知事の選挙権を奪われてしまった。
 全ての戦略的重要事項はプーチンの非公式政治局を構成する小集団が決定しているという。その小グループのメンバーはIgor Sechin(経済担当)、Viktor Ivanov(クレムリンの人事)、Nikolai Patrushev(FSB長官)、Sergei Ivanov(第一副首相)と言われており、全員がセント・ペテルスブルグ出身で諜報部門か或いは防諜部門に勤務していた。
 シロビキの権力は巨大な財力を持つ国有企業支配によって更に強化されている。ロシア政府のポストと経済界でのポストが渾然一体の複合体を形成しているのは経済界に張りめぐられたシロビキのネットワークを見れば、一目瞭然である。

[政財界を横断するシロビキのネットワーク]
 要人名  政府のポスト  経済界でのポスト
 Sechin   大統領府長官代理  Rosneft(巨大石油会社)会長
 Viktor Ivanov  大統領府長官代理  Almaz-Antai(最大ミサイル製造会社)会長                      Aeroflot(航空会社)会長
 Sergei Ivanov    第一副首相 航空機製造独占企業(新設)社長
 Dmitirii Medvedev 第一副首相     Gazprom(巨大ガス会社)会長
 Alexei Gromov   大統領報道官    Channel One(主要テレビ会社)会長
 Vladimir Yakunin 元国連大使     国有鉄道社長
 Sergei Chemezov ドレスデン時代同僚 Rosoboronexport(武器輸出会社)社長

 ガスプロムにはトップだけではなく、KGBからの派遣者が経営の要職を占めているし、更には多くの予備役高官がロシアの国営及び民営の大会社に派遣されている。彼らはFSBの給料の支払いを受けながら、派遣先の会社からも月給を貰っている。彼らの任務は企業が国益に反する決定をしないように監視することであると言う。あるKGB予備役職員は「企業への派遣職員になることは憧れの仕事である。高額の給料が支給されて、しかもFSB職員の特権も維持できるからだ」と語っている。

<大衆受けする反オリガルヒ・反西欧キャンペーン>
 国営石油会社Rosneft社は、有力なオリガルヒであったホドルコフスキーが所有していた大手石油会社ユーコスが解体に追い込まれた後の遺産相続人となった。そのユーコスへの国家の攻撃が最終段階に達した時、SechinがRosneftの会長に任命された。ユーコスの解体はシロビキへの財産を再分配する最初で最もあからさまな実例であるが、唯一の例というわけではない。急速に成長しつつあった石油会社Russneftの所有者Mikhail Gutserievは今年の8月、事業放棄に追い込まれた。検察庁や税務署、内務省などが不正行為があると難癖をつけて、締め上げたからだと言う。
 オリガルヒからシロビキへの金融資産の移転は多分必然性があったのであろう。ロシア人大衆からの反対は全くなかった。国家の資産を掠め取ったと思われている盗賊貴族であるオリガルヒへの同情は殆ど皆無だったからである。しかし私有財産が恣意的に国家官僚によって取り上げられ、KGBの仲間内で山分けされる風潮風土は歓迎されるものではない。海外からの投資は勿論、更に衝撃的なのは、国内投資ですらも、中国に比べれば極めて低水準である。
 KGB人脈の首脳達は自分達こそが世界の真相、実像を理解している唯一の存在であると自負している。一般民衆には見分けられない敵の存在を自分達だけが見分けられると信じている。その世界観の中心には誇張された敵視感がある。その敵の存在こそがKGB人脈の存在理由でもある。
 1999年に「数年前最早我々には敵は存在しないと言う幻想にとらわれた。その高いツケを今、支払わされている」とプーチンはFSB内で演説した。この見方はKGB元職員やその後継者達によって共有されている。「最大の危険は欧米諸国からやって来る。彼らの目的はロシアを弱体化し、混乱を巻き起こそうとしている。欧米諸国はロシアを彼らの技術の奴隷にしようとしており、彼らの商品をわが市場に氾濫させようとしている。しかし、有難いことに我々はなお有力核兵器保有国である」と。シロビキの「敵に包囲されているロシア」と言う被害妄想意識と、反西側主義はロシアの民衆に大いに受けている。「ゴルバチョフ時代にロシアは西側諸国から好感を持たれていた。しかし、我々はそれによって何かを得られたか? 我々の方が全てを差し出しただけではないか? 東欧諸国、ウクライナ、そしてグルジア。今やNATOがロシア国境まで迫ってきている」と言う見方がその雰囲気を見事に表現している。また西側に評判の良い、自由な考え方のできるジャーナリストや独立のアナリスト、科学者などは内なる敵と見なされている。

<世襲化する特権階級KGB>
 多くの指標から、今日の治安権力のボス達は権力と金力の両方を欲しい侭にしていることが分かる。これはロシアの歴史では前例のないことである。ソ連のKGBとその前身である帝政時代の秘密警察も金には関心がなかった。関心を払ったのは専ら権力であった。KGBは強大な勢力ではあったが、共産党の戦闘部隊に過ぎず、共産党に従属する存在であった。情報機関と治安機関、秘密政治警察などの機能を独占したKGBは誰よりも諸情報に通じていたが、自己の権限で活動することは出来なかった。ただ共産党にご注進するだけであった。1970年代、1980年代には共産党幹部をスパイすることさえ許されておらず、非人間的ではあったが、少なくともソ連の法律の範囲内で活動していた。
 KGBは監視と抑圧の機能を果たしていた。それは「国家内の国家」という存在であった。しかし今やKGBは国家そのものになってしまった。プーチン以外にFSBに「No!」と言える人物はいない。
 自分達を国家と一体と考えるシロビキの小集団の手に政治権力と財力が集中しているが、治安機関の下っ端にも恩恵を及ぼすことを怠っていない。FSBの諜報部員の平均的な賃金は過去10年間で数倍に跳ね上がった。FSBの陣笠達は民間の手からシロビキへの私有財産の移転は国家の利益であると信じている。
 しかしシロビキの権力行使は憲法や法律に規定された正統性のあるものとはいえない。「国家権力を回復し、ロシアを崩壊から救出し、ロシアを弱体化しようとする敵の企みを阻止することが我々の特別の任務である」と彼らは主張している。
 シロビキは彼らの任務の為には法律に違反することも許される強固な結社であると考えている。彼らの言動は無法者の色彩を帯びているが、彼らの愛国心は民衆に対する軽蔑心と一体である。しかし、彼らは相互には極めて結束が堅い。
 シロビキの仲間になる競争は激烈である。KGBは注意深く新人を発掘した。いろいろな機関や大学から見込みのある若者を一本釣りし、KGBの特別の学校に送り込んだ。モスクワに設置されている今日のFSB大学校はシロビキ幹部の子弟達が挙って入学している。「大事なのはそこで何を学ぶかではない。そこで誰と出会い、如何なる人脈を作るかである」と言う。
 FSB大学校の卒業生は仲が良い。「チェキスト(KGBの前身の秘密警察)は血統であると思う」とあるFSB将官は告白している。KGBのよき血統、即ち父親または祖父がKGB勤務であったならば、今日のシロビキでは高い評価を受ける。シロビキの家族間の結婚も奨励されている。

<KGB支配の限界>
 プーチンが大統領になった時のGDPは世界第10位で、外貨準備は85億ドルに過ぎなかった。処が今日ではGDPは世界第8位に上昇し、外貨準備は4075億ドルに跳ね上がった。クレムリンは欧州諸国のロシア産ガスへの依存度を高めて、自国の勢力拡大の政策手段として活用しようとしている。
 しかし、ロシア経済の好調は石油、ガス及びその他の天然資源の価格高騰に大きく依存している。これは長続きするとはいえない。ロシアの製造業やサービス産業、ハイテク産業は極めて弱体である。前に述べたように海外からの投資、国内投資とも中国に比べ著しく低調である。
 国土の大きさと強大な軍事力とによって、ロシアは世界の大国である。しかし、かつてのソ連時代には共産主義というイデオロギーを通じての、ソフト・パワーやある種の政治道義的威信が存在したが、今やそれも消失してしまった。その代わりに恐怖と威嚇のみが残っている。
 シロビキ達はソ連時代からのルーツに忠実ではあるが、彼らの祖先とは大きく異なっている。彼らは共産主義イデオロギーへの復帰は望んでいないし、資本主義を止めたいとも思っていない。彼らはそこから散々美味い汁を吸っているからである。祖先達の禁欲主義は何処にも見当たらない。
 ロシアの復活は周辺諸国に脅威を与え、グルジアやウクライナ、バルト三国を震え上がらせている。「敵に包囲されている」と言う考えに取り付かれたロシアの対外政策は、その考え方を自己実現的に実証する方向に動いている。全ての戦線で敵を絶え間なく非難しつづければ、多くの国を潜在的な友好国から神経質な敵対国へと変えてしまうであろう。これによってロシアは長期的には自らの国益を損なっているのではないか?
 KGBの元職員が権力の座に登りつめたのは驚くべきことではない。ロシア人が支配者に感じる魅力は断固たる態度、冷徹さ、権威、それとある種の神秘性だと言われている。KGBはこの定義に適っているか、少なくともそう見せかける方法を身に付けている。
 しかし、大企業にスパイを送り込むと言う方法はやがて失敗する運命にあるのではないか? 彼らは資産を奪い、敵を監獄に送り込む方法は知っていても、ビジネスを実際に運営する方法を知らない。KGB出身者は戦術家ではあるが、戦略的課題を解決する教育を受けてはいない。
 不安は的中しつつあるように見える。サブプライム問題に端を発する信用収縮の影響で、欧米勢がロシアから資金を引き揚げ始めているからである。
 天然ガスを独占するガスプロムでさえ、9月上旬にアレクサンドル・メドベージェフ副社長を日本に派遣、国際協力銀行に融資を申し入れた。日本の金融機関など見向きもしなかった同社の心変わりは子会社の社債発行引き受けを欧米投資家が見送るなど低利の資金調達が難しくなったことが背景にありそうだ。
 一般論としても、ロシアの民衆がもう少し豊かになる一方で、KGB人脈が経済を私物化し、しかも経済運営に失敗したことを理解するようになれば、現在の支配者達に不満を懐くようになろう。それでなくてもロシアは膨大な問題を抱えている。犯罪の横行や貧弱なインフラ、北コーカサスの分離独立運動と混乱、ぞっとするような人権侵害、不気味に迫る人口減少などである。

 事実ロシアの将来に対する最大の脅威は外部の敵から生じるのではない。寧ろ内部の弱さこそが脅威を生み出すのである。その内の一部は自業自得によるものである。プーチン若しくはシロビキにとって、この事実を認識するには本当の勇気を必要とする。これこそが彼らが自負する真の愛国心であろう。

 

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Comments

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Tracked on December 05, 2007 01:31 PM

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