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April 12, 2006

日高義樹「米中石油戦争がはじまった」を読む。

 NHKの元アメリカ総局長日高義樹氏が題記の極めて刺激的な題名の本を出版した。この本の予測がどれほど正鵠を得たものか確言し得ないが、可能性としてはありえない話ではないし、ありうるシナリオの一つとして頭の片隅に置いておいたほうが良いと考えられるので、ここに概要を紹介することとしたい。
                  
石油は戦略物資か、単なる市況商品か?
 以前にも紹介したことがあるが、石油を如何なる物資と捉えるか? 大きく二つの見方がある。一つは「石油の一滴は血の一滴」と言う言葉に代表されるように、力ずくで軍事力に訴えても排他的・独占的に確保すべき物資と捉える見方であり、もう一つは石油をお金さえ払えば、何処からでも、誰からでも買える商品と見る見方である。

 2005年の夏、中国海洋石油(CNOOC)が米国の石油会社UNOCALに常識はずれの買収額を提示して、買収を試みたことからアメリカ議会やマスコミが大騒ぎをはじめたことによって、昨年の7月21、22日の二日にわたって、上下両院の合同特別委員会の中国に関す特別公聴会が開かれた。

 この公聴会での専門家の意見を取りまとめると、
◇中国が海軍力をはじめ、核戦力を強化しているのは、将来起きてくる石油危機に備えてアメリカと対決しても石油を確保したいと考えているからである。
◇中国は新しい世界の大国としてエネルギーを確保し、やがてアメリカと対立する可能性が強い。
◇中国は、世界各地で石油を確保する努力を続けている。石油をめぐって世界のあらゆる地点でアメリカと対決をはじめている。
 これら専門家の見方を総合すると、アメリカでは石油を優れて戦略物資と捉えて、それをめぐって中国が将来アメリカの敵になることがはっきりして来たということになろう。

中国は2025年、石油危機を起こす
 米国のエネルギー省が2005年2月3日発表したところによると、世界の石油消費は2025年には日量1億2500万バレルになると言う。これは現在の8500万バレルと比べると50%増えること(年率2%弱の伸び)になる。
 その間に米国の消費量は2000万バレル/1日→2900万バレル(年率1.7%)
中国のそれは700万バレル→2800万バレル(年率7%) と ほぼ米国に匹敵する量となる。
 米国が中国を敵と見なす最大の理由はここにある。中国の石油消費量が今後も急速に増加しつづけて米国と同じになるとすれば、中国は米国と張り合って、世界中で石油獲得戦争に乗り出さざるを得なくなると見ている。UNOCALの買収も、イラン、サウヂ、ベネズエラ、ナイジェリア、スーダンなどの専制国家、腐敗国家に秋波を送り、接近を図っているのもその戦略の一環とみているのである。

重商主義中国と赤字国家米国のもたれ合いは何時まで続くか?
 中国の政策は国民の生活を犠牲にして安い通貨で輸出を増やし、対立国家の金を取り上げて、その資金で石油資源を買いあさり、軍事力を強化してきた。
 またその黒字の一部は米国債や土地不動産の購入と言う形で米国に還流している。米国の双子の赤字をファイナンスしているのは中国や日本といった極東諸国であると言う構造は今や明白である。「中国が米国に投資しなくなれば、アメリカ経済が成り立たない」。中国の拡大する経済そのものが、アメリカ好景気の一部であることを、中国はすでに充分気付いており、米国に対して傲慢とも言うべき態度を取り続けている言う。
 保守派のマスコミの間で、米国が毅然として戦わなければ「Slow Peal Harbor になる」との危機感が高まっていると言う。
 米国の指導者達はこのまま米中友好のジェスチャーを取りつづけ、中国経済の拡大を野放しにすれば、世界の将来が危ないと考え始めていると言う。中国に対する厳しい政策が、これまでの歴史上類をみない長期にわたる安定した経済の拡大をとめることになっても、米国の指導者としてはなさねばならない任務であると言うわけである。

中国は米国の怖さを知らない
 米国人は妥協を許さない激しい国民性を持っていることを中国共産党の指導者達は見落としているのではないか? 
 米国人は自分達の主義主張を押し通すためにヨーロッパを捨てて新しい世界に移り住んだ人々である。自分達が受け入れられない生き方に妥協するつもりは全く無いという。
 米国は建国以来230年戦いつづけている。その戦いは自分の主義主張を押し通すためのもので、しかも戦いは勝つことだと考えている。勝つためには敵よりも強力な武器を持つことだと信じている。こうした米国を相手に軍事力増強と言う挑戦をはじめた中国は勝つことの出来ない戦いをはじめたのであると言う。

恐怖のシナリオは実現するのか?
 筆者はご存知の通り、NHKに入局後、ワシントン特派員、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長、アメリカ総局長を歴任し、その後ハドソン研究所の首席研究員として、日米関係の調査・研究にあたった知米派である。その時の豊富な人脈を駆使して、米議会、軍事筋、研究機関などから直接得たなまなまい情報をもとに、分析したシナリオはそれなりに説得力がある。
 米中が正面衝突する路線をまっしぐらに驀進していると言うシナリオが実現するとすれば、中国の隣国に位置するわが国は深刻な影響を蒙るのは避けられないのはもとより、世界経済自体も破綻しかねない。
 「まさか」と思いたいところだが、日米の衝突も日露戦争直後に、「日米もし戦はば」と言う書物が出版された時には、誰もが「まさか」思ったようである。その後の関東大地震の際には「青い目」の人形を含む大量の救援物資が寄せられたりして、日米の友好関係がゆるぎないものに思えた時期もあった。また第2次大戦直前にも日本から「生糸が輸入できなくなると、ストッキングが出来なくなって、米国の女性が悲鳴をあげるから、戦争など起こりっこない」という俗説もまことしやかに囁かれた。
 しかし、国家間の考え方の対立はそのような感傷を吹き飛ばすような冷厳なものであることをやがて認識させられる羽目となった。
 このシナリオは「まさか」とは思いたいが、頭の片隅に「或いは、あるかも知れない」シナリオとして、留めておいたほうが良いと思われる。
 

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